研究内容

1.溶媒抽出法による高効率分離回収技術の開発
 現在、放射性廃棄物の処理・処分、放射性核種の群分離核変換、金属の湿式精錬、希少金属のリサイクル、産業廃水の浄化、微量金属の分離分析等の重要性が高まり、金属イオンを高効率に分離する技術が求められています。その分離回収技術の1つに溶媒抽出法(図1)があります。この手法は互いに混じり合わない2つの液相間における溶質の分配性の違いを利用した分離技術です。例えば、適当な抽出剤を含む有機溶媒に目的金属イオンを含む水溶液を接触させると、抽出されにくい金属イオンは水溶液中に残留し、抽出されやすい金属イオンのみを選択的に有機溶媒中に移動させることができます。この溶媒抽出法は 連続操作が可能で、生産性が高いことから工業的に利用されており、また、サンプルの前処理、分離濃縮といった分析技術としても幅広く利用されています。この溶媒抽出法は金属資源の少ない日本にとって資源の安定確保を図る技術として期待され、現在でも進歩を続け、その利用は拡大しています。
  環境化学研究グループでは難分離性の金属イオンを高効率に分離可能な溶媒抽出システムを開発し、廃棄物処理や資源問題を解決できるよう、下記のような研究を行っています。

 @ 高性能抽出分離剤の開発
 A 新規抽出装置エマルションフロー法の開発
 B イオン液体を用いた抽出システムの開発(下記2.参照)
 C 逆ミセルと配位子の協同効果を利用した抽出システムの開発
 D 抽出法を用いた金属ナノ粒子の作製

 

 

2.イオン液体を用いた溶媒抽出法とマテリアル開発に関する基礎研究
 イオン液体はカチオンとアニオンのみからなる塩でありながら、室温付近でも液体として存在する物質です。無機物からなる一般的な塩は融点が非常に高く(例えばNaClの融点は約800℃)、室温では固体ですが、非対称で嵩高い有機塩にすることで融点が低下します。典型的なイオン液体の構造を図2に示します。様々なイオンを容易に合成できるため、その組み合わせは無限にあります。


 イオン液体の特徴として、蒸気圧が極めて低く、難燃性で熱安定性が高いといった性質から、一般有機溶媒と比較して安全性が高く、事故リスク、環境リスク、健康リスクを低減できると言われています。一方、化学的にユニークな性質として、イオンの組み合わせによって溶媒特性(極性、疎水性、溶媒混和性など)を制御できるため、目的に応じて自分好みのイオン液体を合成できることが最大の魅力です。例えば、イオン液体に疎水性の高いアニオンを導入すると、イオン液体は水にも脂肪族系有機溶媒にも混ざらないようになり、高い極性と高い疎水性という一見矛盾した二元的性質を同時に導入可能です。このようにイオン液体は水や有機溶媒とは大きく異なる溶媒特性を有することから、反応媒体として大きな可能性を秘めています。

 環境化学研究グループではイオン液体を抽出媒体として用いることで、従来の溶媒抽出法では起こりえない新たな現象を生み出し、学術的な基礎基盤を追究する研究を行っています具体的には下記のような研究を行っています。

 @ 高効率なイオン液体抽出システムの開発
 A イオン液体を用いた分子内協同抽出系の開発
 B イオン液体を用いた金属イオン応答型抽出発光センサーの開発(Coming soon)
 C 金属イオンとイオン液体による錯体形成と分光特性
 D イオン液体へのタンパク質の抽出と機能改変
 E DNAを鋳型にしたシリカナノ構造体の創製

 

3.ナノとバイオを融合した分析システムの開発
 バルク金属をナノメートルサイズまで微細化した金属ナノ粒子は、バルク金属とは異なる特殊な性質をもつことで知られています。例えば、金ナノ粒子は可視光領域に表面プラズモン共鳴が生じるため、粒子の大きさに依存して色が変化する分光学的性質をもっています。この他にも、金ナノ粒子は消光作用、触媒作用、劣化に対する高い安定性といった様々な性質があります。この金ナノ粒子に生体分子を固定することで、金ナノ粒子の性質と生体分子の特異性を組み合わせた新たなナノマテリアルを開発する研究が活発に行われています。例えば、DNA、アプタマー、タンパク質、抗体のような生体分子を金ナノ粒子に固定化することによって、生体機能を付与した金ナノ粒子が合成可能で医療診断やセンサーとして応用されています。
 環境化学研究グループでは有価金属をナノ粒子として資源回収し、得られた金属ナノ粒子に遺伝子組換えタンパク質やペプチド融合配位子を固定することで、金属ナノ粒子に分子認識能を付与し、放射性核種、放射線損傷遺伝子、有害金属イオンなどの新たな分析システムの開発を行っています

 @ 抗体固定化金ナノ粒子の合成とイムノアッセイへの応用
 A 配位子固定化金ナノ粒子を用いた有害金属イオンの高感度比色検出
(Coming soon)

 

当グループでは産官学連携および異分野研究者間
の共同研究を積極的に推進しております。

興味のある方は長縄までご連絡ください。

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原子力化学ディビジョン 環境化学研究グループ