水素分子の高速オルト-パラ転換の実証
分子線と2種類のレーザーを組み合わせた計測法を用いて、パラジウムに化学吸着した水素分子のオルト-パラ転換時間測定に成功しました。その結果、これまで報告されてきた物理吸着水素より100-1000倍転換が速いことが明らかになりました。
H. Ueta et al., Phys. Rev. B 102, 121407(R) (2020).
重水ナノクラスターの分子間振動モードの決定
超高真空下のその場テラヘルツ・赤外吸収分光法と第一原理振動計算を組み合わせることで、重水分子のナノクラスター(2-4量体)の分子間振動モードを解明しました。この成果は、水素結合ポテンシャルの精密決定、水のクラスター化が大気の放射吸収特性に及ぼす影響の評価に直結します。
K. Yamakawa et al., J. Chem. Phys. 152, 174310 (2020).
低速・単色・質量選別した水素イオン源の開発
半球形モノクロメータとウィーンフィルタを用いて、低速・単色・質量選別を全て兼ね備えた水素イオン源を開発しました。グラフェンの水素イオン透過能の評価に貢献することが期待できます。
T. Terasawa et al., e-J. Surf. Sci. Nanotech. (2022), in press.
二次元薄膜の量子トンネル効果を利用した水素同位体分離能をもつ電極触媒の開発
グラフェンとパラジウムのヘテロ電極触媒を用いると、高い分離能で水素同位体ガスを分離できることを発見しました。理論計算の結果、高分離能はグラフェンを介したヒドロンのトンネル効果に起因していることを明らかにしました。
S. Yasuda et al., submitted.
固体界面へ直接合成法により大気中で安定なゲルマネンの合成に成功
Ag(111)薄膜からのゲルマニウム(Ge)析出を応用し、Ge版グラフェンであるゲルマネンを固体界面に直接合成することに成功しました。その結果、固体界面ではゲルマネンが大気中でも酸化せず安定に存在できることを初めて示しました。また、本手法では、AgとAl2O3などの一般的な酸化物の界面にはゲルマネンが形成されず、Ag/ファンデルワールス物質(グラフェンや六方晶窒化ホウ素(h-BN))の界面がゲルマネン合成に必須であることが分かりました。これは、ファンデルワールス物質界面の反応性が低く、Ag(111)上でのゲルマネン形成過程を阻害しないためだと考えられます。
S. Suzuki et al., Adv. Funct. Mater. 31, 2007038 (2021).
グラフェン準結晶の原子配置を解明
2層のグラフェンが30°のねじれ角で積層した”グラフェン準結晶”の原子配置の解明に成功しました。その結果、通常のAB積層のものに比べ、グラフェンの層間隔が広がっていることが明らかになりました。
Y. Fukaya et al., Phys. Rev. B 104, L180202 (2021).
表面の特性を利用した低次元ナノ構造の作製
表面において特有の基板原子配列や秩序配列した1分子厚さの薄膜を利用してナノドットやナノリボンの作製に成功しました。これらの作製手法を基に、新たな材料開発を進めています。
M. Yano et al., Jpn. J. Appl. Phys. 57, 06HD04 (2018).
SrTiO3中の水素関連常磁性欠陥の構造を解明
SrTiO3に水素をドープすると、水素と共に持ち込まれた余分な電子は結晶中を自由に動ける状態をとるだけでなく、部分的に何かに束縛されて動けない状態になることが知られていました。本研究ではミュオン(Mu)を水素のシミュレータとして用いて、この水素同位体に隣接するTiに電子が束縛された状態を観測することに成功しました。
T. U. Ito et al., Appl. Phys. Lett. 115, 192103 (2019), e-J. Surf. Sci. Nanotech. (2022), in press.
手裏剣型の二次元格子を形成する初の磁性体で量子スピン液体状態を観測
アトラス鉱が手裏剣型の格子を形成する初の二次元量子磁性体であることを見出し、さらに、ミュオンと中性子の相補的な性質を利用することで,絶対零度に近い極低温領域においても電子スピンが秩序化しない「量子スピン液体状態」が実現していることを実験的に明らかにした。
M. Fujihala et al., Nat. Commun. 11, 3429 (2020).
スピネル型磁性体AYb2S4(A=Cd,Mg)の基底状態解明
スピン偏極ミュオンを用いた局所物性測定手法(µSR法)により、スピンフラストレーションを有するスピネル型磁性体AYb2S4(A=Cd,Mg)の磁気基底状態と、その差を明らかにしました。
T.Higo et al., Phys. Rev. B 95, 174443 (2017).