ナノ材料デバイス化研究チーム

Nanomaterial Device Research Team

日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所 先端基礎研究センター 表面界面科学研究Gr

研究紹介

効率的な重水素の回収技術の開発(パイオニアラボ 重水素分離技術開発ラボ)

水素の同位体である重水素(D)は、自然界に微量(約0.015%)存在し、そのほとんどが天然水中に含まれています。この希少な物質は、 半導体や有機ELの高耐久化、光ファイバーの伝送性能向上、医薬品・化成品の構造解析など、さまざまな分野で不可欠な役割を果たしています。 さらに、将来的には核融合エネルギーの重要な燃料としても期待されています。現在、重水素は主に天然水から濃縮されて製造されていますが、 そのプロセスには膨大なエネルギーコストがかかるため、多くを輸入に依存しています。そのため、輸入コストや調達リスクが高いことが課題 となっています。我々は、高分子電解質膜(PEM)を用いた電気化学デバイス技術、具体的にはPEM型の水電解や水素ポンピング技術を活用し、 効率的かつ低コストで重水素を回収する技術の開発に取り組んでいます。これにより、持続可能な重水素供給システムの実現を目指しています。

重水素の用途

I. グラフェンの量子トンネル効果を利用した重水素ガス濃縮技術の開発

二次元材料の一つで単原子層のグラフェンは、常温で水素同位体イオンの選択的透過性を有することが報告されています。 しかしながら、このイオンの選択的透過性のメカニズムについて詳細は明らかになっていませんでした。我々は、高分子電解質膜型の電気化学デバイスを利用し、 グラフェンの水素同位体イオンの透過量を精密に評価した結果、量子トンネル効果によって、重水素イオンよりも軽い水素イオンがグラフェンを多く透過する ことを実験と理論から明らかにしました。本成果に基づき、グラフェン対する水素同位体イオンの量子トンネル効果を利用した、常温で高分離能を持つ重水素 ガス濃縮デバイスの構築を試みています。
Referene : ACS Nano 16, 9, 14362-14369 (2022) (2022/8/31プレスリリース)

プロトントンネリングデバイス

II. 効率的な重水濃縮能を持つPEM型電解用電極触媒の開発

軽水を電気分解(電解)すると水素と酸素に分解しますが、重水は軽水と比べ電解されにくい性質があります。 この性質を利用し、軽水と重水の混合水溶液を電解すると、軽水が優先的に分解され、混合水溶液中の重水を濃縮することができます。 固体高分子膜を使用するPEM型電解は、小型化が容易で、メンテナンスや運用コストを抑えられるため、重水濃縮装置として高いポテンシャルを有しています。 しかしながら、現在使用されているPEM型電解の重水濃縮能は不十分であり、さらなる濃縮能力の向上が求められています。 我々は、重水濃縮能が高い電極触媒の開発を行うとともに、表面分析技術を活用して濃縮メカニズムを明らかにする研究も進めています。 これにより、より効率的で高性能な重水濃縮技術の実現を目指しています。
Referene : 特許準備中

プロトントンネリングデバイス

III. 効率的な重水濃縮能を持つPEM型電解システムの開発

準備中。
Referene : 「重水素回収装置、重水素回収方法」特願2025-002046, 特願2025-001736

IV. PEM型電解による重水濃縮のモデル化とシミュレーション

準備中。

自己組織化能を利用した構造規定カーボン触媒の開発

触媒は私たちの生活に欠かせない重要な存在ですが、技術の進歩に伴い、多くの触媒が希少な貴金属を原料としています。このため、将来的な金属資源の枯渇が懸念されており、 貴金属を極力使用しない触媒の開発が世界中で進められています。特に、炭素、窒素、鉄などの安価で豊富な元素を活用した触媒の研究が注目されています。我々の研究では、 炭素を骨格とするグラフェンナノリボンを用いて、精密に構造を設計したモデル触媒を作製しています。このアプローチにより、触媒構造を細かく制御でき、どのような構造が 触媒活性が高くなるのかを解明することが可能です。これにより、貴金属を用いない高性能な炭素系触媒の設計指針を取得し、開発を目指しています。


Referene : RSC Advances 13, 14089-14096 (2023)