先端基礎研究センター極限重元素核科学研究グループの研究フェローが参画する共同研究グループは、メンデレビウム(原子番号101)同位体 258Md の核分裂を観測しました。 258Mdは、米国オークリッジ国立研究所から入手したアインスタイニウム 254Es(原子番号Z=99) を標的とし、JAEAタンデム加速器から供給されるヘリウム(4He)ビームを照射することで生成しました。この結果、258Mdでは、スズ原子核(132Sn)近傍核を2つ生成する質量対称核分裂の経路(モード)と、バリウム(144Ba)近傍核を生成する質量非対称核モードが共存・競合することがわかりました。この現象は、超重元素や天体のr-プロセス元素合成で生成される中性子過剰核の核分裂の特徴を捕まえたもので、元素の限界や天体での元素合成の理解につながることが期待されます。
先端基礎研究センタースピン-エネルギー科学研究グループの中堂博之研究主幹が参画する共同研究グループは、機械的な回転運動によって、核スピンの自由度が多重化する事を見いだしました。スピン1/2ではupスピン状態とdownスピン状態の間でしか共鳴は起きず通常1本の信号しか見えないのが常識ですが、独自開発した試料と同じ回転座標系において核磁気共鳴の信号を観測する装置を用いて信号を観測するとスピン1/2にもかかわらず信号が3本に分裂しました。この3本の信号は、4つに分裂したエネルギー状態のそれぞれの間のエネルギーの吸収に対応しており、これを説明するためにはスピン1/2が2つ必要です。つまり試料の回転によってスピン1/2の自由度が2つ生じたと考えられる訳です。このスピン多重化は磁場中で試料を回転したことによる時間の周期性に由来しています。時間周期性を扱う理論である特殊な理論(フロケ理論)を用いて、本実験におけるスピンの状態を解析したところ、本来のフッ素の核スピン1/2の自由度に加えて、回転運動に由来するスピン1/2の自由度が新たに生じることを理論的に示す事ができました。さらに、この2つのスピン1/2が、量子情報における最小の情報単位である1量子ビットの2つ分となる2量子ビットと同等であることも理論的に示しました。このような、1つの核スピンとその回転によって発現した新たなスピンを組み合わせた 2 量子ビットの演算では、通常の方法では必要である 2 つの異なる物理系の結合を必要としないことから、実装する際のエラーを劇的に軽減できることが期待されます。これにより、精度の高い量子演算が可能になります。
先端基礎研究センタースピン-エネルギー科学研究グループの山本慧研究副主幹が参画する共同研究グループは表面弾性波が磁性材料で作製した回折格子を通過する際に、非相反回折と呼ばれる特殊な回折現象を生じることを発見しました。これは通常の回折現象では見られない非対称な回折が生じるもので、これまで光学分野でしか観測されていませんでした。
表面弾性波は物質表面を伝わる音波であり、周波数フィルターやセンサーなど、現代の通信を支える基盤技術として広く利用されています。本成果を発展させると、磁場によって表面弾性波の曲がる方向を変えられる様になるため、例えば音響スイッチやこれを用いた高性能なマイクロ波フィルターなどへの応用が期待されます。
先端基礎研究センター耐環境性機能材料科学研究グループの青柳 登研究副主幹が参画する研究チームは、「悪魔の仕業でできた表面」と形容されるナノ粒子の凝集体を積層することに成功しました。セラミックスには、金属ナノ粒子に比べて腐食が起こりにくく、耐光・耐熱・耐放射線に優れ、安定に使用できるという特性があるため、先端機能材料として注目を集めています。今回、排ガス浄化触媒の材料製造プロセスを調べたところ、反応の初期段階には液体中には錯イオンだけしか存在しないと思われていましたが、小さなナノ粒子(1次粒子)もできることを発見しました。さらに1次粒子は時間を置くことで規則的に集まり、少し大きな粒子(2次粒子)となることを発見しました。この2次粒子は液滴の形状や乾燥方法を変えることで、自在に変化する高次構造となって積層することが分かりました。
この発見は、自己組織化構造に表面相互作用が重要であることを明示的に示した初めての例です。今後、自己組織化構造の特性を考慮に入れて、耐環境性の優れたセラミックスのナノ粒子を用いて、新しい視点による機能材料開発に繋がる可能性があり、我が国の環境負荷の軽減技術に貢献することが期待されます。
先端基礎研究センタースピン-エネルギー科学研究グループの荒木康史研究副主幹、家田淳一グループリーダーが参画する研究チームは、電子の運動を支配する「宇宙の構造」に相当する、量子状態が持つ構造「量子計量」を、室温・卓上の磁性体中にて実験的に制御することに世界で初めて成功しました。スピン(個々の原子が持つ磁気)が三角形状に配位したカイラル反強磁性体を用いた実験により、通常の金属とは異なる特異な電気伝導信号を捉え、この信号が印加磁場に追随して変化することを発見しました。理論モデルの解析により、この特異な電気伝導信号が、磁場で制御された量子計量に由来することを突き止めました。
この知見は量子計量が織りなす電気伝導現象を理解し利用していくための第一歩であり、今後、整流器やセンサー等の新規量子スピンデバイスへと発展していくことが期待されます。
先端基礎研究センター耐環境性機能材料科学研究グループの田中万也マネージャーが参画する研究チームは、分子レベルの実験とスーパーコンピューターによるシミュレーションを組み合わせて金属イオンの吸着挙動を解析し、水に溶けにくく、イオン半径が大きい金属イオンほど、粘土鉱物に強く吸着される傾向を突き止めました。
今回の発見は、放射性廃棄物の埋設処分を検討するにあたり、土の中の放射性元素の挙動を理解する手助けとなるだけでなく、資源探査や地球以外の太陽系惑星(火星など)や小惑星(リュウグウなど)の理解、さらには土を扱う農業の効率向上にも寄与することが期待されます。
先端基礎研究センター表面界面科学研究グループの髭本亘研究主幹、伊藤孝研究副主任の参画する研究チームは、量子ビームの一つであるミュオンを用いて、鋼鉄中に含まれる微量な炭素を非破壊で定量する方法を開発しました。
今回、研究グループは、大強度陽子加速器施設J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)ミュオン科学実験施設(MUSE)から得られる世界最高強度のミュオンビームを利用して、鋼鉄内部の微量の炭素を、位置選択的かつ非破壊で分析することに世界で初めて成功しました。物質中に捕らえられたミュオンの寿命は、捕らえた元素によって変化します。この性質を巧みに利用することで、鋼鉄に微量に含まれる炭素の量を感度良く検出することができるようになりました。
本研究の成果は、人類にとって最も重要な物質の一つである鋼鉄の品質管理にミュオン分析という新たな選択肢を与えるとともに、文化財などの貴重資料に新たな分析法を提供するものです。
先端基礎研究センター強相関アクチノイド科学研究グループの芳賀芳範研究主幹が参画する研究チームは、スピン三重項超伝導体の候補物質であるウラン系超伝導体UTe2において、超伝導状態の熱伝導を測定することにより、超伝導電子状態を世界で初めて明らかにしました。この結果は、UTe2におけるトポロジカル超伝導実現の可能性を支持します。その場合、表面にはマヨラナ準粒子と呼ばれる奇妙な純粒子が現れ、これを制御することにより量子コンピュータへの応用への可能性を秘めています。
先端基礎研究センタースピン-エネルギー科学研究グループの家田淳一マネージャーが参画するJAEA再資源化特別研究チームによる放射性廃棄物からのエネルギーや有用元素を回収する取り組みが、第18回 原子力機構報告会で紹介されたことを受けて各種メディアに取り上げられました。この取り組みの中で、スピン熱電発電を利用した放射性同位体(RI)からの熱エネルギーの回収を担当しており、これまでに高い放射線環境下でも熱電変換特性の劣化が生じないことを、各種放射線実験により実証しています。
本成果は、現代社会の課題の一つである放射性廃棄物の処理に新しい切り口を提供する可能性を秘めており、今後は出力の増大などの研究開発を進めていく予定です。
先端基礎研究センター強相関アクチノイド科学研究グループの徳永陽グループリーダーらの研究チームは、スピン三重項超伝導の候補物質であるウラン系超伝導体において強磁場中での核磁気共鳴(NMR)実験を行い、高い臨界磁場を示す超伝導のメカニズムを解明しました。ウラン系超伝導体では、強い磁場をかけることで物質内の磁気的ゆらぎが増大し、それによって超伝導を生み出す電子対の結合が強まり、高い臨界磁場が実現していることがわかりました。
今回の成果により、今後、ウラン系以外の化合物でもより高い臨界磁場を持つ超伝導体の開発が可能となり、超伝導技術の応用分野をさらに拡げることに繋がると期待されます。
先端基礎研究センタースピン-エネルギー科学研究グループの山本慧研究副主幹が参画する共同研究グループは、磁場には容易に応答しないにもかかわらず磁気を内に秘める材料「反強磁性体」の性質を、超音波を用いて詳細に調べられることを実証しました。
本研究成果は、磁気メモリの高記録密度化および動作高速化や高周波磁場の検知を可能にするとして注目されている反強磁性材料の新しい物性測定手法を提供し、今後幅広く利用されると期待されます。
先端基礎研究センタースピン-エネルギー科学研究グループの山本慧研究副主幹が参画する共同研究グループは、基板の表面に磁石を用いたうろこ状の周期的な模様(パターン)を形成することで、その表面を伝わる音波に「バレー」(valley、谷)と呼ばれるある種の回転状態を与え、磁場によって、その「バレー音波」の左回りと右回りを区別して制御できることを明らかにしました。
本研究成果は、バレー音波の回転状態に0と1のビットを割り振ることで、省エネルギーで過酷環境でも動作する新たな情報処理デバイスの開発に貢献すると期待されます。
先端基礎研究センター表面界面科学研究グループの伊藤孝研究副主幹が参画する研究グループは、ゼオライトの外表面にPdナノ粒子を担持した触媒を開発し、この触媒を用いてアルカンとベンゼンの直接結合反応を実現しました。
従来のアルキルベンゼン合成では副生成物として酸が排出されるのに対し、本手法における副生成物は水素あるいは水のみです。この反応の鍵はゼオライトの酸点からPdナノ粒子への水素原子の移動にあります。μ+SR法を用いた測定から、原子状水素がゼオライト中に生成した場合、反応に必要な時間にわたってその状態を維持し得ることが示唆されました。
先端基礎研究センター表面界面科学研究グループの植田寛和研究副主幹と福谷克之グループリーダー(東京大学生産技術研究所)は水素分子から固体表面への回転エネルギー移動機構を明らかにしました。本研究の成果は、気体から固体への熱の伝わりやすさを固体最表面の元素と構造を変えることで制御できる可能性を示すものです。
先端基礎研究センター表面界面科学研究グループの寺澤知潮研究員が所属する共同研究グループは半導体表面を原子レベルで平坦にする新技術として応用可能な、ステップアンバンチング現象を発見しました。従来の半導体製造技術では、SiCウェハ表面を非常に平坦にできるものの加工によるダメージ層が残ったり、ダメージ層はないものの表面が荒くなったりしてデバイス特性に悪影響を及ぼすという課題がありました。
本研究の成果は、半導体製造工程において、化学機械研磨を含むプロセスが不要になり、コストと時間を大幅に削減できる可能性があると期待されます。
先端基礎研究センタースピン-エネルギー科学研究グループの荒木康史研究副主幹と家田淳一研究主幹は、電子回路の基礎となる素子「インダクタ」を抜本的に小型化できる新原理を考案し、理論的に検証しました。この新型インダクタでは、絶縁体の一種「トポロジカル絶縁体」の薄膜を用いることにより、従来型インダクタ(コイル)と同等の電力効率を保ちつつ、サイズを従来の約10000分の1に小型化することが可能です。この新原理は、トポロジカル絶縁体の界面が特徴的に示す、電気と磁気の相互変換の性質に基づいています。
本研究の成果は、インダクタを用いた高速信号回路を大幅に集積化し、様々な電子機器に高度な情報処理機能を搭載するための鍵となります。これにより、身の周りのあらゆる電子機器がネットワークと連携して機能する「Internet of Things (IoT)」社会の進展に大きく貢献することが期待されます。
先端基礎研究センター強相関アクチノイド科学研究グループの芳賀芳範研究主幹らの所属する研究グループは、ウランを含む超伝導体であるウランテルル化物(UTe2)においてカイラリティ(掌性)を持つ超伝導状態が実現していることを実験的に明らかにしました。
本研究の成果は、超伝導状態の基礎的理解を進展させるとともに、カイラル超伝導が持つ特異な性質が新たな量子技術の開発につながることが期待されます。
先端基礎研究センター強相関アクチノイド科学研究グループの酒井研究主幹らは、昨年、超伝導性能が格段に向上するUTe2の超純良単結晶の育成方法を開発し、今回、この超伝導転移温度が向上した単結晶を用いて、磁場や温度を変えながら、超伝導の性質を精密に調べました。その結果、低磁場超伝導状態と高磁場超伝導状態との間に、両者が入り混じった新しい超伝導状態が存在することを発見しました。
低磁場・高磁場・その混合超伝導状態のように、多彩な超伝導状態を制御する方法を見出すことができれば、次世代量子コンピュータ用の新しい超伝導量子デバイスの開発につながることが期待されます。
先端基礎研究センターハドロン原子核物理研究グループの橋本直研究副主幹が参画する国際共同研究グループは、最先端のX線検出器である超伝導転移端マイクロカロリメータ (TES)を用いて、負ミュオンと原子核からなる「ミュオン原子」から放出される「ミュオン特性X線」のエネルギースペクトルを精密に測定し、強電場量子電磁力学をエキゾチック原子で検証するための原理検証実験に成功しました。
本研究成果は、人類がいまだ人工的に作り出せない超強電場下における基礎物理法則の検証に向けた大きな一歩です。本研究により実証された最先端量子技術による高効率かつ高精度なX線エネルギー決定法は、ミュオン原子を用いた非破壊元素分析法などさまざまな研究分野への応用が期待できます。
先端基礎研究センタースピン-エネルギー科学研究グループの仲田光樹研究副主幹、先端理論物理研究グループの鈴木渓研究員は、磁性体中でスピン情報を運ぶスピン波(磁気の波)を量子化したマグノンに着目し、マグノン量子場の量子真空ゆらぎによって創発される量子効果「マグノン・カシミア効果」を理論的に解明しました。
ハイゼンベルクの不確定性原理に象徴される通り、量子ゆらぎは量子力学の重要な概念です。特に、光子の量子場の量子真空ゆらぎを起源とするゼロ点エネルギーによって創発される現象のひとつがカシミア効果です。これまでカシミア効果は、主に光子系を舞台に研究されてきましたが、類似した量子現象はゼロ点エネルギーを伴う他の量子場によっても創出することが期待されます。そこで本研究では、有限サイズの磁性体中のマグノン量子場に着目しました。そして、反強磁性絶縁体「酸化クロム(III)」だけでなく、フェリ磁性絶縁体「イットリウム鉄ガーネット」の薄膜を解析し、マグノン量子場の量子真空ゆらぎによって創発される量子効果「マグノン・カシミア効果」を理論的に解明しました。本研究により、マグノン・カシミアエネルギーは磁性体を薄くすることで生まれるエネルギーであることが明らかになりました。
本研究の成果は、カシミア効果の工学的応用を目指す「カシミアエンジニアリング」の基礎学理の構築に大きく貢献することが期待されます。
先端基礎研究センター表面界面科学研究グループの寺澤知潮研究員らは、表面に凹凸構造を持つ金とグラフェンの境目に紫外線を当てて「電子の手」すなわち電子軌道を調べることで、グラフェンと金の間の化学結合には金の凹凸構造の周期の長さおよび金とグラフェンの原子が並ぶ向きが重要であることを明らかにしました。本来は化学結合しにくい炭素膜グラフェンと金を接触させたとき、限られた条件で化学結合を作ることが知られていますが、そのメカニズムは分かっていませんでした。
化学結合は金からグラフェンに磁気の源であるスピンの偏りを移すため、本研究の成果はグラフェン中のスピンの偏りを用いた次世代省エネルギー集積回路などへの応用展開において重要な知見になります。
先端基礎研究センターハドロン原子核物理研究グループの橋本直研究副主幹が参画する研究グループは、K中間子と陽子から直接Λ(1405)粒子を合成し、その複素質量の直接測定に世界で初めて成功しました。
本研究の結果は、K中間子と核子の相互作用を与え、最近発見された新奇なK中間子原子核を理解する基礎的な情報となります。さらには、中性子星の中心部のような超高密度核物質の記述に繋がる理論の進展が期待されます。
先端基礎研究センター表面界面科学研究グループの社本真一客員研究員らは、スピンの揺らぎの直接観測に世界で初めて成功しました。
磁石の磁性は電子の「スピン」で発現します。このスピンの「揺らぎ」は、磁石の性能と関係しますが、ナノメートルサイズまで小型化すると検出が難しい微弱なシグナルとなり、これまで実験で直接とらえた例はありませんでした。ナノメートルサイズのスピン揺らぎの観測には強力な中性子ビームが必要です。そこで、J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)の大強度パルス中性子ビームを利用し、さらに新規に開発した解析プログラムを使用することで、世界で初めてそのスピン揺らぎの直接観測を実現しました。
スピントロニクス素子などの磁気素子はナノメートルサイズまで小型化しています。今回開発した解析方法を利用することで、これまで難しかったナノメートルサイズ以下でのスピン揺らぎの解明が可能になり、ナノ磁性材料の機能向上に貢献すると期待されます。
先端基礎研究センター表面界面科学研究グループの髭本亘研究主幹らは、素粒子ミュオンで超伝導に埋もれた微弱な磁気を発見しました。電気抵抗がゼロになる超伝導現象の発現機構には、磁気が重要な役割を果たす場合があると考えられていますが、今日でもその直接的な証拠は得られていません。そこで、J-PARCにおいて素粒子ミュオンを用いて外部から物質内部の微弱な磁気を観測することで、近年合成出来るようになった高品質のセリウム化合物(CeCo(In,Zn)5)における超伝導と磁気との結びつきを調べました。
その結果、超伝導状態を保ったまま、磁気がない状態から磁気を帯びた状態への移り変わりの観測に成功しました。さらに、磁気と超伝導が直接結びついている証拠を得ました。
このことは超伝導の発現に磁気が大きな役割を果たしていることを示しています。今回の成果は超伝導の発現機構の解明につながる成果であり、超伝導が現れる温度の上昇に向けた研究開発など、超伝導のより広い分野での利用や産業的応用につながることが期待されます。
先端基礎研究センター耐環境性機能材料科学研究グループの田中万也研究主幹が参画する研究グループは、世界最高性能の放射光実験施設の一つであるSPring-8を用いることで、世界初となるRa2+水和構造の分子レベル測定に成功しました。また、スーパーコンピューターを用いて高精度なシミュレーションを行い、実験結果を再現した上で、Ra2+は同族元素よりも周辺の水分子を束縛する力が弱く、水和構造が変化しやすいことも明らかにしました。これらの結果から、Ra2+は同族元素と比べて、水から離れ生体内や環境中に取り込まれやすいことが示唆されました。
先端基礎研究センターハドロン原子核物理研究グループの山本剛史研究員らは、陽子内のクォークの種類を変化させた新奇な粒子と陽子とを散乱させ、クォークのパウリ原理で禁止される状態を作ることで、粒子間に働く力が極端に強い斥力へと変化することを明らかにしました。これはパウリ原理による斥力の起源を検証し、その芯の堅さを実測したことに相当します。芯の本質に迫る今回の成果で、物質が安定して存在できる理由の理解が進むことが期待されます。さらには新しいクォークを含んだ拡張された核力の解明が大きく進むと期待されます。
先端基礎研究センター表面界面科学研究グループの保田諭研究主幹らは、原子一個の厚さからなるグラフェン膜で水素と重水素を分離できることを実証しました。分離のメカニズムはグラフェン膜に対して水素イオンと重水素イオンのすり抜けやすさが大きく異なる量子トンネル効果に起因していることを証明しました。半導体集積回路の高耐久化、光ファイバーの伝搬能力の向上、重水素標識医薬品の開発、核融合のエネルギー源のキーマテリアルである重水素の安価な精製法として期待されます。
先端基礎研究センタースピン-エネルギー科学研究グループの家田研究主幹らは、確率的に振る舞う新規スピントロニクス素子を用いて、ナノメートルサイズの磁石(ナノ磁石)に関する未解決問題を実験で初めて検証し、ナノ磁石の外場(磁場や電流)下の動作を記述する数式を解明しました。これにより、Society5.0で活躍が期待される、省電力で複雑な計算問題を処理するスピントロニクス確率論的コンピューターや超低消費電力半導体の開発に向けた重要な基盤を確立しました。
先端基礎研究センター強相関アクチノイド科学研究グループの酒井研究主幹らは、次世代量子コンピューターへの応用が期待されているトポロジカル超伝導物質候補であるウラン化合物の新しい結晶育成法を考案し、結晶の大幅な純良化と超伝導性能の向上に成功しました。ウラン化合物であるウランテルル化物(化学式UTe2)は、次世代量子コンピューターへの応用が期待されるトポロジカル超伝導体の候補物質です。超伝導性能の向上のために、純良な単結晶が必要です。世界中の研究者がUTe2単結晶育成に取り組んでいますが、機能の障害となるわずかな元素欠損を取り除くことができませんでしたが、今回どこにでもある身近な塩を使った結晶育成法を考案し、元素欠損のない純良な結晶を得ることに成功しました。結晶の純良化により超伝導性能が向上し、量子コンピューターへの応用が期待されるトポロジカル超伝導の研究の加速に寄与します。
先端基礎研究センター先端理論物理研究グループの宇都野マネージャーが参画する研究グループは、カルシウム40原子核の超変形状態から球形の基底状態への予想外に抑制された崩壊を発見しました。理論計算によってその抑制された崩壊のメカニズムを調べた結果、3つの異なる原子核変形がそれぞれの状態に混じり合うことで量子力学的な干渉効果がもたらされたために起きたことがわかりました。混じり合う変形状態が2つのしかない場合はこの効果は生まれず、これは3つの変形混合に特有の現象となります。本研究成果により原子核特有の変形共存現象に関する理解が進展し、宇宙での元素合成過程や原子核の魔法数進化現象の理解に寄与します。
先端基礎研究センター先端理論物理研究グループの宇都野マネージャーが参画する研究グループは、スーパーコンピュータ「京」と「富岳」を用いた第一原理核構造計算により、炭素-12(12C)原子核(陽子数6、中性子数6)のホイル状態と呼ばれる励起状態がアルファ粒子3個からなるクラスター構造をもつことを明らかにしました。ホイル状態は、炭素が恒星中で合成される際に決定的な役割を果たすことが知られており、本研究成果は地球環境や生命の誕生に欠かせない炭素の起源の解明に貢献するものです。
先端基礎研究センタースピン-エネルギー科学研究グループの荒木研究員、家田淳一研究主幹らは、ワイル点と呼ばれる特殊な電子状態をもつ酸化物の磁石ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)において、電気による磁化反転に応用可能な新原理を実証しました。この新原理を用いることにより、従来よりも高効率に電気による磁化反転が可能となり、高速かつ低消費電力なメモリとして注目されている磁気メモリなどの省電力化が期待されます。
先端基礎研究センタースピンエネルギー変換材料科学研究グループの家田研究主幹らは、工業用磁性材料として広く用いられるイットリウム鉄ガーネット(YIG)において、スピン・格子結合が100K以上の温度で抑制されることを超音波と中性子を組み合わせた新実験手法により明らかにしました。本成果は、物質中のスピンを使って発電する原理「スピンゼーベック効果」の高効率化にむけて、スピン・格子結合を高める物質設計が重要であることを示唆するものです。
先端基礎研究センターハドロン原子核物理研究グループの橋本直研究副主幹らが参画する国際共同研究グループは、大強度陽子加速器施設 J-PARCで供給される世界最高強度のK-中間子ビームの高放射線環境下において超高精度“温度計”を用いた高分解能X線検出器を導入することに成功しました。これによりK中間子原子から放出されるX線を従来の10倍の精度で測定し、K中間子に働く「強い相互作用」に関する重要な基礎データを得ました。このX線検出技術は、今後「強い相互作用」の研究のみならず、さまざまな放射線環境下におけるX線測定にも飛躍的な進歩をもたらすと期待されます。
先端基礎研究センター重元素核科学研究グループの田中翔也学生実習生(日本学術振興会特別研究員・近畿大学大学院総合理工学研究科大学院生)および西尾勝久研究主席らは、原子核反応のひとつである「多核子移行反応」において、反応直後の原子核(複合核)に与えられる角運動量を実験的に決定することに成功しました。この反応は、中性子数の多い超重元素を合成する方法として注目されていますが、これら生成断面積を大きく支配する角運動量を詳細に決定した成果はありませんでした。本研究は、新たな超重元素同位体を開拓するための重要な知見となるものです。
先端基礎研究センターの芳賀芳範研究主幹らが参画する共同研究グループは、「悪魔の階段」として知られる相転移において、伝導電子が多極子(局在スピン・軌道の複合自由度)と強く相互作用することで現れる準粒子「多極子ポーラロン」を発見しました。「悪魔の階段」では、スピン・軌道配列が温度や磁場と共に目まぐるしく変調しますが、多極子ポーラロンは、それらの変調に合わせるように自在に相互作用の強さを変えることを明らかにしました。この新しい相互作用は、磁場や圧力で伝導電子を制御する磁気メモリなどの動作原理としても機能する可能性があるため、スピントロニクスに向けた磁性材料設計へ新たな展開が期待できます。
先端基礎研究センターの荒木康史任期付研究員、家田淳一研究主幹は、電気的に磁性体の磁気を制御する新たな原理を発見しました。従来の手法では電流を用いるため、電気抵抗による発熱に伴うエネルギー損失が問題でしたが、本研究では物質中の電子状態が持つ構造「トポロジー」を活用することにより、電気抵抗に左右されず、電圧信号をかけるだけで磁気を制御できる新たな原理を発見しました。新原理の発見により、これまで14年にわたって未解明だった、理論予測を超えた磁気制御効率の実験報告について、その起源に関する謎を解明しました。本研究が新たに示した「トポロジー」の条件によって、スピントロニクスに用いる物質の開発を加速させ、磁気メモリ等に応用する「電気的な磁気制御」のより一層の省電力化に貢献することが期待されます。
先端基礎研究センターハドロン原子核物理研究グループの山本任期付研究員らが参画する国際共同研究グループは、ストレンジクォークを含む「奇妙な粒子」と呼ばれるシグマ粒子と陽子を直接散乱させることで、粒子間にはたらく「拡張された核力」を解明する手法を確立しました。寿命が非常に短く数cmしか飛行しないシグマ粒子と陽子との散乱現象の精密測定に世界で初めて成功しました。本成果で確立した実験手法を異なる種類の「奇妙な粒子」と陽子との散乱実験に適用しデータを蓄積することで、拡張された核力の解明が大きく進むことが期待されます。
先端基礎研究センターハドロン原子核物理研究グループの橋本直研究副主幹らが参画する国際共同研究グループは、最先端X線検出器である超伝導転移端マイクロカロリメータ(TES)を用いて、「ミュオン原子」から放出される「電子特性X線」のエネルギースペクトルを精密に測定し、ミュオン原子形成過程のダイナミクスの全貌を明らかにしました。本研究成果は、負ミュオン・電子・原子核から構成されるエキゾチック量子少数多体系のダイナミクスという新たな研究分野の開拓につながると期待できます。
先端基礎研究センター重元素核科学研究グループのキエラ・ナディーン博士研究員(現 ポール・シェラー研究所(スイス))、佐藤哲也研究副主幹らは、105番元素「ドブニウム(Db)」の純粋な揮発性化合物の合成と分離に成功し、ドブニウム化合物を形作る化学結合が周期表の予想から変化していることを見出しました。本成果によって、105番元素ドブニウム化合物の化学的性質に「周期表からのずれ」があることが明らかになりました。超重元素であるドブニウムの化学的性質は、実験が非常に困難であるために発見以来50年間ほとんど調べられていませんでした。今後、周期表の極限領域の元素の性質がさらに明らかになることで、元素周期表全体の理解へとつながることが期待されます。
先端基礎研究センタースピンエネルギー変換材料科学研究グループの家田研究主幹らは、強い磁気を内部に秘する「沈黙の磁石」反強磁性体に電子スピンを作用させたときに生じる現象を調べ、内部のカイラルスピン構造が無磁場中で恒常的に回転する新現象を発見しました。また、この回転の周波数はGHz程度であり、モーターと同様に入力する電流の大きさに応じて変化することを明らかにしました。これは磁石の電気的制御の四半世紀の研究史で見出されたいずれの現象とも一線を画すものであり、またそれらと比べて極めて小さな電流で誘起できることから、従来技術では実現できない発振器や乱数生成器などの新機能・高効率スピントロニクス素子の実現へと繋がるものと期待されます。
先端基礎研究センター重元素材料物性研究グループの常盤研究副主幹らは、量子効果の強いイッテルビウム磁性体が絶対零度近くの極低温に到達可能な優れた磁気冷却材であることを示しました。現在主流のヘリウム冷凍機は、使用しているヘリウム3ガスが原子炉などでしか生産できず、極めて希少で供給不安定なことが懸念されていました。一方で、イッテルビウム磁性体は原料の入手が容易です。この高性能冷却材の登場により、イッテルビウム磁性体を使用した磁気冷却が現行冷却法を代替し、量子コンピュータなどに広く利用されることが期待されます。
先端基礎研究センタースピン-エネルギー変換材料科学研究グループの家田研究主幹らは、電子回路の基本的な性質「インダクタンス」を電子スピンの特性を活用することにより広範囲に制御する新しい方法を見出しました。本研究は、スピンを介したエネルギー変換技術の利用により、従来技術では実現が困難であった集積回路等の極微領域での電源回路や負のインダクタといった魅力的な機能を実現させる「パワースピントロニクス」の開発を切り拓くものです。今後さらに研究を進めることにより、情報集約型の未来社会(Society5.0)を支える基盤量子技術の一環として、幅広く利活用されるようになることが期待されます
先端基礎研究センターハドロン原子核物理研究グループの早川修平博士研究員らが参画する研究グループは、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)を利用した国際共同実験(J-PARC E07実験)で、グザイマイナス1)と呼ばれるストレンジクォーク1)を2つ持つ粒子を含む超原子核である「グザイ核」を新たに観測しました。この事象は岐阜県にある伊吹山にちなんで「伊吹事象(IBUKI event)」と命名され、詳細解析によってグザイマイナス粒子が窒素14原子核に束縛した状態とわかりました。これまでグザイ核の質量は、グザイ核が崩壊してできる娘核の状態に複数の解釈があったために決定できていませんでした。今回発見された事象では、解釈の曖昧さなく、その質量を初めて高精度で決定しました。グザイ核の質量から、グザイマイナス粒子と原子核、さらにはその構成要素である陽子や中性子との間に働く力の大きさを知ることができます。また、グザイマイナス粒子などのストレンジクォークを持つ粒子(ハイペロン1))は、この宇宙で最も密度の高い天体である中性子星内に出現すると考えられており、その力の大きさは中性子星内でどのハイペロンがどのような密度で出現してくるか、ひいては半径や内部の圧力といった構造の理解につながります。したがって、グザイマイナス粒子に働く力を精密に決定した本研究は、物質を構成する素粒子「クォーク」から物質が形成される仕組みの理解に繋がる成果になるとともに、巨大な原子核と言われる中性子星の内部構造の解明に一歩迫る成果です。
先端基礎研究センター界面反応場化学研究グループの関根由莉奈研究員(兼物質科学研究センター)、南川卓也研究員らが参画する研究グループは、骨がストロンチウムやカドミウムなどの金属に対して高い吸着性能を有するメカニズムを明らかにするとともに、その性質を利用することで、既存の低コストな天然吸着剤よりも高い効率で、ストロンチウムやカドミウムなどの有害金属を吸着して取り除くことができる新しい吸着剤を開発することに成功しました。食品廃棄骨の“豚骨”を重曹(炭酸水素ナトリウム)に浸け込むだけで、低コストで容易に作ることができる吸着剤を実現した本研究成果は、食品廃棄物の有効活用に繋がるだけではなく、汚染水の浄化、土壌に埋めることで汚染物質の地下水や海水への流入を防ぐ技術、また、有用金属回収技術への活用が期待されます。
先端基礎研究センター先端理論物理研究グループの吉田博士研究員が参画する国際共同研究グループは、RCNPサイクロトロン施設の高分解能磁気分析装置を用いた実験により、スズ(Sn)同位体の原子核表面に存在するアルファ粒子、つまりヘリウム-4原子核(4He、陽子数2、中性子数2)を発見しました。
本研究成果は、中性子星の質量と大きさの関係を与えるパラメータの決定に影響を与え、かつアルファ崩壊の原理解明につながる発見であり、原子核物理学全領域の研究開発に貢献することが期待できます。
これまで、重い原子核の表面にアルファ粒子が存在することは理論的な仮説に過ぎず、本実験により初めてその存在が確認されました。
今回、国際共同研究グループは、RCNPサイクロトロンで得られる4億電子ボルトの陽子ビームを四つのスズ標的(112Sn、116Sn、120Sn、124Sn)に入射し、アルファ粒子をたたき出す「ノックアウト反応実験」を行いました。たたき出されたアルファ粒子と散乱された陽子を高精度で分析した結果、アルファ粒子がスズ原子核の表面に存在する証拠を得たと結論づけました。
先端基礎研究センター先端理論物理研究グループの宇都野マネージャーが参画する研究グループは、それぞれの元素が、同位体としてどれだけ多くの中性子を含められるかという限界値を決める、新しい原理を発見しました。それは、原子核の形が球から楕円体に変化することによる結合エネルギーの増減であり、スーパーコンピュータを駆使した第一原理的な核構造計算によって見出されました。限界値に近い中性子数をもった原子核は極めて短時間でベータ崩壊するものの、天体中で起こる元素合成の途上で出現することが知られており、本研究の知見は、地上の元素の起源を解明するのに重要な貢献をするものと期待されます。
先端基礎研究センター界面反応場化学研究グループの関根由莉奈研究員(兼物質科学研究センター)、南川卓也研究員、杉田剛研究員らが参画する研究グループは、木材から得られるセルロースナノファイバーとレモンに含まれるクエン酸を凍結濃縮させて反応することにより、これまでにない圧縮復元性を持ち、非常に高い成型性を持った、環境にやさしい高強度ゲル材料「凍結架橋セルロースナノファイバーゲル」の開発に成功しました。
先端基礎研究センターの岡安悟研究主幹、家田淳一研究主幹らは、熱から電気を生む「スピン熱電素子」が非常に高い放射線耐性を示すことを実証しました。近年、電子スピンを利用した「スピン熱電素子」が開発され、設計自由度、低環境負荷、経済性の観点で既存技術を凌駕すると期待されています。この技術を同位体電池に組み込めば、次世代の発電方法の開発につながる展望が開けますが、放射性同位体と共存する過酷環境下で素子性能が保たれるか未確認でした。本研究では、高エネルギー放射線である重イオン線を照射することで過酷環境での耐用年数の見積もりを行い、仮に熱源として使用済み核燃料を使った場合でも数百年にわたって発電性能の劣化が生じないことを確認しました。将来的には使用済み核燃料などの放射線環境下での廃熱を回収し、安全かつ有効に活用する新技術への展開に貢献するものと期待されます。
先端基礎研究センターの山本慧任期付研究員(文部科学省卓越研究員、理研CEMS客員研究員)らが参画する国際共同研究グループは、「レイリー波」と呼ばれる固体表面に沿って伝わる音波が、面上に貼り付けた磁石の薄膜を通過する際に、磁石の片側から入射する場合と反対側から入射する場合で、磁石への吸収量が大きく異なることを発見しました。このような磁石によるレイリー波の「整流効果」は以前より知られていましたが、吸収量の差が小さく、また磁石の膜が薄いほど弱くなると考えられていました。しかし、今回の実験では1.6ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)の極薄膜の磁石で、ある方向からの入射波については吸収が全くゼロとなる100%の整流効果を実現しました。本研究成果は、表面音波を用いた情報処理や、絶縁体における熱の運び手である音波を制御することによる廃熱の有効利用などに向けた音響整流装置の開発に貢献すると期待できます。
先端基礎研究センターハドロン原子核物理研究グループの谷田聖研究主幹らが参画する国際共同研究グループは、米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)の偏極陽子衝突型加速器「RHIC(リック)」を使って、反対方向に運動する陽子同士の衝突により、
衝突位置の超前方に生成される「中性π中間子」が大きな左右非対称度を持つことを発見しました。
今回、国際共同研究グループは、偏極陽子と陽子の衝突で生成される中性π中間子の左右非対称度が、超前方付近の小さい角度でも存在することを発見し、さらにその非対称度がゼロ度(図の角度θ=0度)付近で急激に増加し、より大きな角度の値とほぼ同じ
大きさに達することを明らかにしました。この結果により、これまでの理論的解釈は大きな見直しを迫られることになりました。
先端基礎研究センター スピン-エネルギー変換材料科学研究グループ 中堂 博之副主研究員、お茶の水女子大学 髙橋 遼助教(研究開始時 原子力機構 博士研究員)、中国科学院大学 松尾 衛准教授(研究開始時 原子力機構 副主任研究員)、
理化学研究所 前川 禎通上級研究員(研究時 原子力機構 センター長)、東京大学 齊藤 英治教授らは、電子の自転の流れであるスピン流を介した流体発電現象のマイクロメートルスケールの微細流路における特性を解明し、微細になるほど発電効率が飛躍的に向上することを発見しました。
微細流路で流れは層流と呼ばれる状態になり、微小な渦のような液体運動が流路全域に広くなだらかに分布します。このことが、より微細化に適した特性と発電効率の増大につながっています。スピン流を介した流体発電現象の基礎理論は松尾グループリーダーらが2017年に予言しており、
本研究ではこの流体発電現象の実験的実証を層流領域において実現しました。実験の結果、層流領域では発電効率がおよそ10万倍向上することが確認されました。
本研究成果により、スピン流を介した流体発電現象は微細化により特性が大きく向上することが示唆されます。また、流路の内部および外部に付加装置を必要としません。このため、スピントロニクス技術を取り入れたナノ流体デバイスや微細な流れを用いた流速計などに応用できると期待されます。
原子力機構は東大及び理研と協力し、セリウム・アンチモンが示す「悪魔の階段」と呼ばれる複雑な相転移現象において、強い相関状態を受け入れることと引き換えに生じる伝導電子の特殊な振る舞いを解明しました。
研究グループは、「悪魔の階段」で変化するスピン配列と伝導電子を超高分解能レーザー光電子分光で測定することで、「悪魔の階段」を誘発するメカニズムを調べました。その結果、本来自由に動き回るはずの伝導電子が、局在スピンとの強い相互作用を受け入れて束縛状態に陥ることと引き換えに、擬ギャップ状態を形成してエネルギー利得を得ることが「悪魔の階段」を引き起こす要因となっていることを突き止めました。本研究で明らかにした電子とスピンの強い相関は、スピン配列で伝導電子を制御して磁気メモリなどの動作原理としても機能するため、スピントロニクス磁性材料設計への展開が期待できます。
原子力機構は東大、早稲田大、KEKと協力し、これまで未解決だった超伝導を示す炭素原子層物質グラフェンとカルシウムの2次元化合物の原子配列を、全反射高速陽電子回折法(TRHEPD法、トレプト法)という実験手法を用いて世界で初めて決定しました。また、この原子配列が電気抵抗がゼロになる超伝導現象を示すことも実験により明らかにしました。グラフェンを利用した新たな化合物の原子配列を解明したことで、エネルギー損失ゼロの超高速情報処理ナノデバイスなどの材料開発への応用に道を開くものです。
先端基礎研究センター スピン-エネルギー変換材料科学研究グループ 針井 一哉研究員(特定課題推進員)、東北大学金属材料研究所・材料科学口頭研究所の齊藤 英治教授、理化学研究所 前川 禎通グループリーダーらの研究グループは、スピン流が運ぶミクロな回転がマクロな動力となることを実証しました。マイクロメートルスケールの磁性絶縁片持ち梁(カンチレバー)注1)を作製し、そこに磁気の流れであるスピン流注2)を注入することでカンチレバーを振動させることに成功しました。カンチレバーは絶縁体なので、電流は一切流れず、磁気の流れであるスピン流だけを流すことができます。この結果により、スピン流が運ぶミクロな量子力学的回転がマクロな動力となることが実証されました。今回作製した素子では、加熱によってスピン流を注入するため、カンチレバー上に電気配線することなく振動を起こすことができます。そのため、本手法は配線が困難なマイクロ機械デバイスの動力などに応用できる可能性があります。
先端基礎研究センター スピン-エネルギー変換材料科学研究グループ 山本 慧任期付研究員(文科省卓越研究員制度)、東京大学工学部の齊藤 英治教授らの研究グループは、磁石を伝わる磁気の波をトポロジーを用いて分類し、表面波が持つ安定性を説明することに世界で初めて成功しました。
磁気の波には、磁石の内部を伝わる波と表面を伝わる波があります。表面波は内部波より長い距離を安定して伝わります。これは古くから知られていましたが、なぜ安定して伝わるかは解明されていませんでした。本研究では、磁気の波を数式として表した上で、トポロジーによる分類手法を用いて、表面波が安定に伝わる仕組みを世界で初めて解明しました。本成果は、表面波を情報処理へ応用できる可能性を拓くもので、電気回路に依存しないより省エネ・高機能な情報機器の開発につながることが期待されます。
原子力機構は、岐阜大、J-PARCセンター、KEKなどと協力し、ベリリウムの原子核を芯とする二重ラムダ核を発見しました(図)。(「美濃イベント」と命名。)今回発見した「美濃イベント」でもラムダ粒子間に働く力が引力であり、「長良イベント」とは大きさが異なることを確認しました。芯となる原子核の違いで、ラムダ粒子の結合エネルギーに変化があることを観測した初めての例です。この結果は、J-PARCの高純度かつ大量の中間子を使用したことなどで、過去の100倍のデータを取りためることができたことによります。
物質を構成する素粒子に働く力の性質と仕組みの解明は、現代物理学の大きなテーマです。2つのラムダ粒子が原子核に入った「二重ラムダ核」の質量変化を測定することで、ラムダ粒子間に働く力の大きさを定量的に知ることが、課題の一つでした。二重ラムダ核として最初に発見した、ヘリウム4(He4)の原子核を芯とした「長良イベント」では、ラムダ粒子間に働く力が「引力」であることが分かりました。そこで、二重ラムダ核の芯となる原子核を変えることで、ラムダ粒子間に働く力の詳細を調べることにしました。
新たに開発中の画像認識技術を用いた全面探査システムの導入などで、過去の実験の100倍の二重ラムダ核を検出できるようになります。中性子星の内部には、強力な重力により、ラムダ粒子が存在する可能性があります。したがって、ラムダ粒子の力の詳細が明らかになれば、中性子星の構造解明に結びつくものと期待できます。
原子力機構は東大、電通大と協力し、磁石の中を高速に伝播する”磁気の壁”の運動を電圧で制御することに成功しました。磁石の中を伝播する”磁気の壁”(磁壁)をより高速で駆動させる技術は磁気メモリの高性能化に不可欠であり、磁石に電圧を加える手法はそれを省エネルギーで実現するものとして期待されています。これまでは秒速1ミリメートル以下という極めて遅い速度領域でしか主な実証報告がありませんでしたが、本研究ではそれよりはるかに高速な秒速100メートルを超える速度領域において、磁壁の速度を電圧により変化させることに成功しました。メモリとして実用可能な速度領域における電圧による磁壁速度変化の実証は世界初であり、高速・大容量・高耐久性という特性を兼ね備えた究極のストレージメモリとして期待される「レーストラックメモリ」の実現にも大きく近づく成果です。
原子力機構の立岩尚之研究主幹らは、ウラン化合物UGe2において、強磁性と超伝導が協調関係にあることを世界で初めて明らかにしました。従来、強磁性と超伝導は相が悪いされてきましたが、近年いくつかのウラン化合物で強磁性と超伝導共存が発見され、その超伝導機構の解明が待たれる状況にありました。高圧下で超伝導と強磁性の2つの現象が現れるウラン化合物UGe2で、強磁性 ゆらぎと超伝導の密接な関係を世界で初めて発見しました。本研究成果から、強磁性ゆらぎが超伝導出現で重要な役割を果たすと考えられ、超伝導の機構解明への発展が期待されます。
原子力機構は総合科学研究機構、J-PARCセンターと協力し、鉄リン系超伝導体(LaFePO)で高エネルギーの反強磁性磁気ゆらぎを世界で初めて発見しました。鉄系超伝導体の発見以来、反強磁性磁気ゆらぎの探索が行われ、反強磁性磁気ゆらぎのエネルギーと超伝導転移温度(TC)は関係があり、TCの低い物質では、反強磁性磁気ゆらぎのエネルギーは低いか存在しないと考えられてきました。今回、当研究グループは、酸素濃度の調整条件を最適化することによってて⾼品位鉄リン系超伝導体(LaFePO)試料の⼤量合成に成功し、これを用いてこれまで見過ごされてきた高いエネルギーまで観測領域をひろげることにより、予想よりも約15 倍程度⾼い約40meVに反強磁性磁気ゆらぎが存在することを世界で初めて明らかにしました。⾼エネルギーの反強磁性磁気ゆらぎをもつ超伝導体が必ずしも⾼い超伝導転移温度を⽰さないことがわかり、これまでの常識とは異なる⾼エネルギーの反強磁性磁気ゆらぎの発⾒により、鉄系超伝導体において超伝導機構の鍵となる反強磁性磁気ゆらぎの役割への理解が深まることが期待されます。
原子力機構は理研と協力し、磁石を高速回転させるだけで、磁気の素となる電子の回転運動(角運動量)の温度変化を観測する汎用性の高い角運動量測定装置を開発しました。さらにこの角運動量測定装置を使って角運動量の大きさを調べることで、ある特定の磁性体で、角運動量が消失するのを観測しました。磁気反転プロセスと角運動量は密接に関係しており、角運動量が小さい時に磁気反転が高速化されます。角運動量測定装置でさまざまな物質の角運動量を測定することで、次世代の高速磁気デバイス向けの材料探索を行うことが期待されます。
原子力機構は豊田中研やKEK、阪大やICUと協力し、J-PARCの大強度のミュオンビームと高感度の高集積陽電子検出器システムを組み合わせることで、世界で初めて、負電荷を持つ素粒子ミュオンによって水素が物質内に作る微小磁場を検出しました。これにより固体内の水素の運動を検出できるようになり、高性能な水素貯蔵材料の開発への貢献に期待されます。
原子力機構は電磁材料研究所や東北大と協力し、鉄(Fe)-コバルト(Co)合金と、フッ化アルミニウム(AlF3)やフッ化イットリウム(YF3)のターゲットを用いたスパッタ法により、ナノメートル(1/1000000ミリメートル)の微細複合構造を持つナノグラニュラー磁性体の研究開発を進め、世界的に求められつつも45年間実現しなかった新しいファラデー効果を示す材料の開発を実現しました。本研究の成果を発展させることにより、光デバイスの小型化・集積化が可能となり、ノイズ、消費電力、処理速度などの電子デバイスが抱える原理的な限界は無縁のものになるでしょう。
原子力機構は東大、理研、阪大、高輝度光科学研究センターと協力し、セリウムモノプニクタイドと呼ばれる物質群において、物質内部に隠れたトポロジーの決定に世界で初めて成功しました。トポロジーとは、連続的に変形できるか否かにより形を分類する数学の学問です。これまで物質内部に潜在するトポロジーは、物質の表面という「見かけ」だけの観測で非直接的に判断されてきましたが、今回、大型放射光施設SPring-8から得られる高輝度の軟X線領域の光と角度分解光電子分光を組み合わせた軟X線固体分光ビームライン BL25SU を用いて、セリウムモノプニクタイドと呼ばれる物質群の電子構造を詳細に調べることにより、「見かけ」の観測を必要としない、物質の内部に隠れたトポロジーの直接的な観測に世界で初めて成功しました。今回確立した実験手法は、物質本来のトポロジーを曖昧なく決定することができるため、多彩なトポロジカル電子相の発見に繋がることが期待されます。
原子力機構の服部研究員らは、原子力機構の施設を活用し、核燃料物質であるウラン化合物URu2Si2が、強い磁場環境下でも超伝導を維持できる仕組みを初めて明らかにしました。これまで核燃料物質という性質上取扱いが難しく、実際に測定できたことはありませんでした。このことは、より実用的な超伝導磁石等の開発に役立つと期待されます。
原子力機構は東北大や東大と協力し、スピン流雑音の基礎理論を構築し、スピン流生成に伴って試料に発生する熱量をスピン流雑音測定から決定する手法を発見しました。これによって、スピン流の生成メカニズムを精密に調べることが可能となり、スピン流の高効率制御技術と省電力電子技術の発展につながることが期待されます。
原子力機構は理研と協力し、米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)の「RHIC衝突加速器」を使い、偏極陽子と金原子核の衝突反応により生成される中性子の飛び出す方向に、左側へ約15%偏りがあることを発見しました。今後、原子核の電荷依存性を系統的に調べることにより、電磁相互作用介在の裏付けを行い、反応メカニズムの解明を目指します。
原子力機構は東工大や近畿大との共同研究により、核分裂における原子核のさまざまな“ちぎれ方”を捉え、原子核からの中性子放出と核分裂における原子核の“ちぎれ方”の関係を初めて明らかにしました。核分裂は、原子核が変形して2つにちぎれる現象ですが、これまで原子核の中性子放出と“ちぎれ方”の詳細を知ることができませんでした。本研究では、実験と理論を駆使して、これを初めて明らかにしました。原子核の中性子放出と“ちぎれ方”の解明により、核分裂に対する深い理解につながり、さらには核分裂を利用した放射性物質の毒性低減のための核変換技術への貢献が期待できます。
東京大学物性研究所などと協力し、JAEA先端研は、重い電子系超伝導体CeCoIn5の最表面で、電子軌道による新たな秩序状態の存在を、走査トンネル顕微鏡(STM)によって発見しました。これまで間接的な観察しか行われていなかった電子軌道の秩序状態が、初めて実空間で直接的に観察されました。表面で誘起される軌道秩序は、普遍的な現象である可能性があり、今後、未解明の物理現象解明への糸口となることが期待されます。
慶應義塾大学、東北大学、原子力機構の研究グループは銅にレイリー波と呼ばれる音波を注入することにより、磁気の流れである「スピン流」を生成することに成功しました。
本研究で生成したスピン流による実験結果から、スマートフォンなどの携帯情報端末に広く搭載されている磁気デバイスの高性能化・省電力化や安価なレアメタルフリー技術として大きく貢献することが期待されます。
JAEAは米国オークリッジ国立研究所との協力で、アインスタイニウム同位体(254Es)を特別に入手することとなりました。日本がアインスタイニウムを入手するのは初めてとなります。この同位体と、タンデム加速器やSPring-8で開発したJAEA独自の装置を利用することにより、核分裂のメカニズムやアインスタイニウムの水和構造を調べる実験を計画しています。
スピン流とは、物質中の磁気の流れです。スピン流の利用により、電流では不可能であった低消費電力による情報伝導、情報処理、エネルギー変換が可能になるため、次世代のエレクトロニクスの候補「スピントロニクス」の重要な要素と期待されています。本研究は、「量子スピン系」と呼ばれる物質群において、従来とは全く異なるタイプのスピン流が存在することを明らかにしました。
透明磁石の開発は、磁性材料研究において重要なテーマの一つです。室温で透明磁石が実現すれば、磁気・電子および光学デバイスのみならず、様々な産業分野に多くの革新的な技術発展をもたらすことが期待できます。ナノメートル(1/1000000ミリメートル)の微細複合構造を持つナノグラニュラー磁性体の研究開発を進め、可視光領域において高い光透過性を持ち、かつ強磁性併せ持つ薄膜材料の開発に成功しました。
全反射高速陽電子回折(TRHEPD)法を用いて、グラフェンのゲルマニウム版である”ゲルマネン”の原子配置の解明に成功しました。その結果、これまでの予想に反し、ゲルマネンの原子配置の対称性が破れていることが明らかになりました。
核分裂片の質量数収率分布を、重イオンどうしの衝突で生じる多核子移行反応によって取得する新たな方法の開発に成功しました。これにより、中性子過剰核など未測定核種を含む14核種以上のデータを1度に取得できることが可能となりました。また、動力学モデルが核分裂機構を説明できることを示しました。
森林生態系を破壊せず、降雨などの自然の力を利用して穏やかに里山を再生するための、放射性セシウムの移行抑制の新技術を開発しました。セシウムを吸着するベントナイトを森林傾斜地における腐葉土に散布して、セシウムの植物への吸収を防ぐとともに、ポリイオンコンプレックス(反対電荷を持った高分子が静電力によって自己集合したもの)を用いて、雨水の流れで移行するベントナイトを捕捉します。
東京大学、日本原子力研究開発機構などの研究グループは、スーパーコンピュータ「京」を用いた大規模原子核構造計算によって、カルシウム48のゼロニュートリノ二重ベータ崩壊の核行列要素に対する最も信頼度の高い値を得ることに成功しました。ゼロニュートリノ二重ベータ崩壊の半減期が測定されると、この計算からニュートリノの質量に対して極めて大きな制約を与えることが可能となります。
日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)との共同研究チームは、共同開発した全反射高速陽電子回折(TRHEPD)法を用いてグラフェンと金属基板間の境界面の構造(界面構造)を詳細に調べ、金属の元素によるグラフェンとの結合の違いを実験的に明らかにしました。
高エネルギー加速器研究機構(KEK)、北海道大学、日本原子力研究開発機構(JAEA)の共同研究チームは、表面敏感な全反射高速陽電子回折(TRHEPD)法を用いて光触媒として知られている二酸化チタンの表面構造を決定し、最表面に位置する酸素の原子配置が非対称化することを明らかにしました。
11/3にプレスリリースした研究成果「液体金属流から電気エネルギーを取り出せることを解明~電子の自転運動を利用した新しい発電へ~」がNature PhysicsとNature MaterialsのNews&Viewsで取り上げられました。
Nature Materials
http://www.nature.com/nmat/journal/v14/n12/full/nmat4499.html/
Nature Physics
http://www.nature.com/nphys/journal/vaop/ncurrent/full/nphys3572.html
東北大学・高エネルギー加速器研究機構(KEK)・日本原子力研究開発機構(JAEA)を中心とする国際グループは、大強度陽子加速器施設J-PARCのハドロン実験施設で行った実験で、原子核のもつ基本的な対称性である「荷電対称性」が、原子核に「奇妙な粒子」と呼ばれるラムダ粒子を加えることで大きく崩れることを発見しました。
磁気の向きが乱雑なまま固化した状態であるスピングラスに、電荷の流れを伴わないスピンのみの流れ(スピン流)を注入することで、現在最高感度の観測装置である超伝導量子干渉計(SQUID)でも観測することのできなかった磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功しました。この技術を応用することで、高感度磁気センサへの道が開けると期待されます。
水銀などの液体金属の中で発生する渦運動が、その金属原子中の電子をプロペラのように回転させることで発電する仕組みを世界で初めて発見しました。この発電方法はタービンのような構造物を一切必要としないので、将来は、わずかな電気で動作するナノサイズの超小型ロボットの電源技術への応用などが期待されます。
イオン照射により、結晶状態や構造をコントロールした新奇複合ナノチューブの創製方法の開発に成功しました。本手法は、様々な新奇複合セラミックナノ材料の創製を可能とし、それらを用いた小型化・省電力化された電子・発光デバイスの開発が、今後期待されます。
・超伝導体中でのスピンホール効果の観測に初めて成功した。 ・超伝導状態では常伝導状態に比べスピンホール効果が2000倍以上増大することを発見した。 ・微小なスピン流から大きな信号を取り出せることから、スピン検出素子や次世代スピントロニクス素子の実現への貢献が期待される。
ウラン化合物URhGeでは、磁場でいちど壊された超伝導が、さらに強い磁場をかけると再び出現するという、これまでにない現象が見つかっていました。今回、核磁気共鳴実験からこの新しい超伝導のメカニズムを初めて明らかにしました。
103番元素ローレンシウム(Lr)のイオン化エネルギー測定に成功しました。ローレンシウムを含む超重元素のイオン化エネルギーは生成量の少なさと寿命の短さから今まで測定されたことがありませんでしたが、新たな測定方法を開発し実現しました。測定したイオン化エネルギーは他のアクチノイドと比べて極端に低いこと、この値を理論計算で再現すると、最外殻電子が相対論効果の影響を受けて周期表から期待される軌道と異なることを高い精度で明らかにしました。
特定の金属微粒子への光照射で誘起される「表面プラズモン」と呼ばれる電子の集団運動を磁石の中で励起することで、光のエネルギーをスピン流に変換することに世界で初めて成功しました。
極僅かにイリジウムを添加した銅において、磁気の流れを電気の流れ(もしくはその逆)に変換する物理現象(スピンホール効果)で生じる電圧の符号が、電子同士の互いに反発しあう力によって反転することを理論的に示しました。
フォノンホール効果について、なぜ熱流が磁場によって向きを変えるのかは謎でしたが、今回、当研究グループは、この現象の起源が、非磁性絶縁体に極僅かに含まれた磁気を持ったイオン(磁性イオン)によるものであることを、理論計算によって明らかにしました。
ウラン化合物超伝導体URu2Si2の超純良試料を用い、超伝導ゆらぎに起因した「熱磁気効果」を精密に測定した結果、従来の理論値に比べ100万倍にも達する巨大な熱磁気効果を観測しました。
東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故によって生成された、放射性セシウムを含む下水汚泥焼却灰の化学状態を分析し、灰を数百ナノメートルサイズの粒子まで粉砕して処理することで、90%以上の放射性セシウムを回収することに成功しました。
重元素イッテルビウム(Yb)化合物において、低温の環境下では異なった状態の電子が共存し、磁場によって電子状態が変化する現象を発見しました。
106番元素「シーボーギウム(Sg)」の有機金属錯体の化学合成に成功しました。また、その揮発性に関する化学データから、Sgが周期表の第6族元素に特徴的な化学的性質を持つことを実証しました。
大型放射光施設(SPring-8)のX線を用いた研究において、生体内のDNAに対して水と放射線が相乗的に働いてDNA損傷の度合いを左右するような新しいプロセスを観測するための技術開発に成功しました。 この技術は放射線、特に癌の治療や植物の品種改良で使われているイオンビームなどが、生体中のDNA分子をどのように変化させていくかの機構解明につながり、放射線 の医療や産業への応用に大きく貢献することが期待されます。 本研究成果は、米国物理学協会『Journal of Chemical Physics』電子版に掲載されました。
全く新しい発想による多機能性材料の開発に成功しました。開発した材料は、ナノグ ラニュラー材料と呼ばれるナノ磁性粒子を誘電相中に分散させた金属と絶縁体の2相 からなる薄膜誘電体材料であり、室温で大きな誘電率と磁気-誘電効果を示すことを 見いだしました。 本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に掲載されました。
磁性と超伝導が共存する唯一の超伝導体として知られているウラン系強磁性超伝導体において、既存の磁性理論では説明できない全く新しいタイプの磁性現象を発見しました。原子力基礎研究を通して、固体物理学における相転移の研究に新たな展開を提供するとともに、超伝導を含めた新しい機能をもったウラン化合物を作るための原理の解明につながると期待されます。 本研究成果は、米国物理学会誌「Physical Review B」オンライン版にEditors' Suggestion(注目論文)として掲載されています。
ウラン化合物URu2Si2の「隠れた秩序」の結晶構造が、わずかに菱形状にひずんでい ることを、SPring-8における放射光を用いた超高分解能結晶構造解析により直接的な 方法で観測して示しました。英国科学誌「Nature Communications」に2014年6月19日付け でオンライン掲載。
ウラン化合物(URu2Si2)に対して、世界最高磁場を用いて状態を変化させて出現した磁気状態を、核磁気共鳴(NMR)法により調べた結果、特異な構造を決定しました。新しい機能をもったウラン化合物を作るための原理を解明し、将来の原子力科学の発展に寄与します。米国物理学会誌 「Physical Review Letters (フィジカル レビューレターズ)」の オンライン版に6月11日に掲載。
J-PARCのミュオン装置群施設MUSE (MUon Science Establishment)の世界最高強度の パルスミュオンビームを用いて、数mm厚の隕石模擬物質から軽元素(C, B, N, O)の非 破壊深度分析、有機物を含む炭素質コンドライト隕石の深度70μm、および深度1 mm における非破壊元素分析という新しい非破壊元素分析に成功しました。この成果は、 5月27日英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」 に掲載。
核磁気共鳴法を独自に発展させ、1秒間に万回転する物質中の原子核スピンを分析する手法を開発しました。これにより、高速回転運動が素粒子のスピンへ与える効果を直接測定することに成功しました。今後、物体の回転運動を用いてスピンを制御するナノメカニクス研究の加速が期待されます。日本応用物理学会誌「Physics Express(アプライドフィジクス*エクスプレス)」のオンライン版に 2014年>5月21日に掲載。
高エネルギー加速器研究機構(以下「KEK」)物質構造科学研究所の兵頭俊夫特定教授、名古屋大学の一宮彪彦名誉教授らのグループの共同研究および共同利用研究により、KEKの高強度低速陽電子ビームを高輝度化して、TRHEPD(Total Reflection High-Energy Positron Diffraction, 全反射高速陽電子回折)法の高度化を実現しました。この手法をシリコン結晶の(111)表面に適用して、その表面超高感度性を実証しました。応用物理学会がInstitute of Physicsを通じて出版する「Applied Physics Express」に2014年4月9日に掲載。
大阪府立大学(理事長・学長 奥野武俊)の児玉靖司教授と共同で、DNAが損傷を受けることで、細胞中の被ばくしていない正常な染色体にも異常が生じることを発見しました。本研究成果はDNA損傷による染色体異常の誘発メカニズムの解明が期待でき、また放射線による細胞のがん化のメカニズムの解明や低線量被ばくの人体への影響評価に大きく貢献する可能性があります。『Mutation Research』誌の電子版に掲載。
家田淳一副主任研究員、前川禎通は、 客員研究員の米国マイアミ大S・バーンズ教授とともに、厚さわずか数原子層からなる極薄磁石の磁気の向きを、 薄膜面に対して垂直に保持する新しいメカニズムを理論的に見出しました。 史上最強のネオジム磁石をも凌駕するナノスケールの極薄磁石開発や不揮発性磁気メモリの超高密度化に資するもの。 Scientific Reports誌に論文掲載。
日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」)先端基礎研究センターの河裾厚男研究主幹のグループと高エネルギー加速器研究機構(以下「KEK」)物質構造科学研究所の兵頭俊夫特定教授、 名古屋大学の一宮彪彦名誉教授らのグループの共同研究および共同利用研究(研究代表:原子力機構・深谷有喜研究副主幹)により、 KEKの高強度低速陽電子ビーム※2を高輝度化して、TRHEPD(Total Reflection High-Energy Positron Diffraction, 全反射高速陽電子回折)法の高度化を実現しました。 この手法をシリコン結晶の(111)表面に適用して、その表面超高感度性を実証しました。
水素に代わって検出が容易な正ミュオンをチタン酸バリウムの結晶に打ち込み、 これを模擬的な水素不純物とみなして局所的な電子状態を調べました。 実験の結果、正ミュオンに対する電子の束縛は極めて弱く、 実際の水素不純物も同様のメカニズムにより電子を放出し、絶縁性の低下を引き起こすことを解明。 Applied Physics Letters誌に論文掲載。
深さ分解X線磁気円二色性分光法を用いて、グラフェンと磁性金属(ニッケル)薄膜の接合体を分析し、 グラフェンと磁性金属の界面近傍で、電子スピンの向きが面内方向から面直方向に変化して配列していることを発見。 グラフェンへの高効率スピン注入の実現に指針。 Journal of Materials Chemistry C誌に論文掲載。
ウラン化合物超伝導体URu2Si2で未知の超伝導前駆状態における電子ひずみを、 核磁気共鳴(NMR)法を用いて原子レベルで測定することに成功。
Physical Review Letters誌に論文掲載。
音波注入によって振動する金属中における磁気の流れを精密に表す基礎方程式を導き、 音波注入によって金属中にスピン流を生みだす新しい原理を発見しました。 本研究によって、貴金属や磁石を必要としない省電力磁気デバイス開発への貢献が期待できます。 論文はPhysical Review B, Rapid Communicationsに掲載されました。
当研究グループではスピンの向きを揃えた(偏極させた)陽電子を材料中の電子に作用させ、 電子スピンの検出を目指して研究を進めてきました。今回、加速器を使って高強度の陽電子線源(ゲルマニウム-68)を生成し、 この線源を用いたものとしては世界最高のスピン偏極率 を持つ陽電子ビームの開発に成功しました。本成果により、 スピン偏極陽電子ビームを用いた陽電子消滅法が、スピントロニクス開発に必要な電子スピンの新たな評価手法となることが期待されます。Nuclear Instruments and Methods誌に論文掲載。
磁気の波(スピン波)を利用することで、熱エネルギーを望みの方向に移動させることができる基本原理を考案し、これを実証しました。この手法により、デバイスからの排熱効率を上げることが可能となり、今後、次世代省エネルギーデバイス技術の開発に貢献することが期待されます。論文はNature Materialsに掲載されました。
ウラン化合物超伝導体(URu2Si2)を17.5K以下の極低温に冷却した際に出現する電子状態を、結晶に力を加えてひずませることで、より高温で出現させることに成功しました。極低温で格子ひずみを人工的に作る新しい技術により初めて得られた成果で、ウラン化合物超伝導体において長年未解明の電子状態の理解を大きく前進させものです。 論文はPhys. Rev. B 87, 115123 (2013)
福島第一原子力発電事故により降下した放射性Csは、土壌中のイライトなど小さい粒径の粘土鉱物に強く吸着していると考えられていました。しかし、ふるい分けなどにより粘土鉱物を多く含む細粒部分を除去しても、まだ大部分の放射性Csが残っているケースもあり、その原因としてカオリナイトやバーネサイトなどの粒度の比較的大きな鉱物にも強く吸着することを見いだしました。より効果的な除染の実施に寄与する知見です。
家田淳一研究員、前川禎通は、形状を工夫した磁石の内部に存在する磁壁の運動を制御することにより時間変化しない直流磁場から交流の電圧を生み出す機構を見出しました。磁場の大きさや、磁石の形状を変えることで出力電圧の交流特性も制御可能とするもの。本研究成果は、Applied Physics Lettersに掲載されるとともに、出版元のAmerican Institute of Physicsの注目論文として取り上げられ、既に多くの反響があります(1,2,3,4,5,6)。
SPring-8によってX線のエネルギーを精密に調整しつつDNAの照射実験を行ったところ、 窒素や酸素のイオン化レベルをわずかに超えた領域では、放出される電子が 再び原子に捕らえられ、反応性の高い不対電子となっていることがオンラインのEPR(電子常磁性共鳴)装置で検出されました。 これはこれまで認識されていないメカニズムのDNA損傷を引き起こすと考えられます。論文は Physical Review Lettersに掲載されました。
東京大学物性研究所の大谷義近教授らの研究グループとともに、 電荷の動きを伴わないスピンのみの流れである純スピン流を利用して、常磁性体から強磁性体に転移する温度付近で電圧信号に異常が現れることを発見。 この異常はごく微量の強磁性体でも非常に敏感に現れ、超伝導量子干渉計(SQUID)をもはるかに凌駕する感度として、超高感度磁気センサーとしての応用が期待されます。
前川禎通、大江純一郎講師(東邦大学、元先端研博士研究員)は、大阪大学、京都大学化学研究所、物質・材料研究機構、マイアミ大学との共同研究で、ミクロな強磁性円盤から発生するスピン起電力の実時間観測に成功しました。 スピン起電力は磁化の運動の付随する複雑な効果であるため、これまでは、平均化したシグナルの検出報告しかありませんでしたが、 磁気渦と呼ばれる特殊な磁化構造の運動を用いて、スピン起電力を局所的にかつリアルタイムで検出することに成功しました。 Nature communications誌に掲載。
米国ロスアラモス国立研究所のJ. D. Thompson博士らの研究グループとともに、 世界初となる239Puの核磁気共鳴(NMR)信号を二酸化プルトニウム(PuO2)において発見しました。今回の信号観測成功は 239Pu核の核磁気モーメントを決定した大きな発見であるとともに、Pu化合物高温超伝導体の超伝導発現機構解明に貢献できることや、 世界的な問題であるPuを含む核燃料廃棄物の長期安全保存に関して、Puの酸化状態を微視的に解明できる唯一の手段として注目されています。 詳細はこちら。 米国科学誌Scienceに掲載。
大きな磁気異方性を有する特殊な磁石を用いることで、磁石の内部に存在する磁壁の運動*2が生み出す起電力を安定的に高出力化することが可能であることを見出しました。Appl. Phys. Lett.に掲載。
森道康グループリーダーと理化学研究所の挽野真一研究員、小椎八重航副チームリーダーは、 強磁性体中(磁石)における磁壁の振動運動が、超伝導接合の電流電圧特性を用いて高感度かつ高精度で観測可能であることを見出しました。 磁壁を利用した磁気ランダムアクセスメモリーなどの開発促進に期待。Appl. Phys. Lett.に掲載。
芳賀芳範主任研究員、大貫惇睦客員研究員(大阪大学教授)は、東京工業大学大学院、 東北大学、岡山大学との共同研究で、ウラン化合物UPt3において、結晶構造から期待される対称性から自発的に回転対称性を破った超伝導状態が 実現していることを実験的に明らかにした。非従来型超伝導の理解に貢献すると期待される。Phys. Rev. Lett.に掲載。
超高真空中に導入した原料分子が、触媒金属の表面で化学反応してグラフェンが 成長する過程を逐次的にモニターすることに成功。グラフェンの成長条件を明らかにし、炭素原子層数の精密制御を初めて実現した。この方法で 層数を精密に制御したグラフェンでは、剥離法による膜の問題であった電子状態の不均一性が解消され、 シート全体に渡って均質な材料が得られた。グラフェンの電気的性質の制御が可能になり、デバイス応用へ道を拓く成果である。 J. Appl. Phys. 111, 064324 (2012)で発表。
先端基礎研究センターの立岩尚之研究副主幹、松田達磨研究副主幹、芳賀芳範サブリーダー、Zachary Fiskグループリーダー及び 大貫惇睦 大阪大学教授(客員研究員)らの研究グループは、ウラン化合物超伝導体URu2Si2において、超伝導と密接に関係する電気抵抗の成分が 存在することを発見しました。Physical Reviewオンライン版に掲載。
酒井宏典研究副主幹(重元素系固体物理研究グループ)は、米国ロスアラモス国立研究所の J. D. Thompson博士らのグループとともに、従来の超伝導理論では説明できない新奇な超伝導を引き起こすと考えられている電子の磁気的揺らぎを、 初めて極低温まで観測しました。今回の実験で明らかになった強い磁気的揺らぎの特異性は、銅酸化物高温超伝導体の異常金属状態にも 共通するものと考えられ、高温超伝導の普遍的な物性理論構築に貢献し、新しい高温超伝導体開発に繋がるものと期待されます。本研究成果は、Physical Review Letters のオンライン版に掲載。
東北大学大学院後期博士課程3年の内田健一氏、東北大学金属材料研究所の齊藤英治教授(日本原子力研究開発機構先端基礎センター客員グループリーダー兼任)、日本原子力研究開発機構先端基礎研究センターの前川禎通センター長らは、音波を注入することによりスピン(磁気)の流れを生成できる新しい手法を発見しました。
新しい強磁性半導体Li(Zn,Mn)Asの開発に成功。磁気的性質と電気的性質を独立に制御できる可能性があり、 更にp-n接合への道も拓かれていることからスピントロニクスへの応用が期待される。中国科学院、米国コロンビア大学、東京大学との共同研究。 黎明研究・国際共同研究プロジェクト(研究代表:植村泰朋コロンビア大学教授)の一環。本研究成果は、 Nature communicationsのオンライン版に掲載。
先端基礎研究センターの家田任期付き研究員、斎藤英治GL、前川禎通らは、あらゆる物質へ応用可能な新たなスピン流注入手法を発見しました。 今回の研究では、磁性金属と半導体から成る素子を作製し、半導体層における磁気・電気変換現象を用いることで、磁性金属中の磁気のダイナミクスを 利用した半導体へのスピン流注入の検出に初めて成功しました。東北大学、ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所との共同研究。Nature Materialsのオンライン版に掲載。
磁気(スピン)を非磁性材料である銀の中に効率よく注入・蓄積することに成功、従来の100倍以上という世界最高性能の出力電圧 (磁気蓄積量)を達成しました。強磁性体であるパーマロイ(鉄とニッケルの合金)と非磁性体である銀との間に、酸化マグネシウム層を挟んで、 注入の障害となるスピン抵抗の不整合を解消。今後は、スピン流やスピン蓄積を用いた超高感度磁気センサー、大容量不揮発性メモリー素子、 スピン演算素子などへの応用開発が加速すると期待できます。理研、東大、東北大との共同研究。
一般相対性理論を取り入れた電子の磁気の流れを記述する基礎方程式を導き、物体の回転(加速運動)によって電子の 自転の向きを揃えて磁気の流れを生みだす新しい現象を発見しました。 前川 禎通のインタビュー記事(PhysOrg.com)
物質物理学における長年の謎であったウラン化合物に現れる「隠れた秩序」状態において、結晶構造からは期待されていなかった回転対称性の 破れを実験的につきとめました。この結果は今まで20以上も提唱されていたこの謎に対する理論の前提を覆すもので、 物質の状態に対する新しい理解へつながると期待されます。
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長:鈴木篤之)先端基礎研究センターの前川禎通、国立大学法人東北大学(総長:井上明久)の齊藤英治教授(原子力機構先端基礎研究センター客員グループリーダー兼任)、東北大学大学院生の内田健一氏らは、温度差をつけた絶縁体から電気エネルギーを取り出す新しい手法を発見しました。
日本原子力研究開発機構(理事長:岡﨑俊雄)先端基礎研究センターの前川禎通、東北大学(総長:井上明久)金属材料研究所の高橋三郎助教、及びIBMアルマデン研究所のStuart S. P. Parkin博士、Hyunsoo Yang博士、See-Hun Yang博士らの研究グループは共同で、超伝導体へスピン注1)と呼ばれる磁気を注入して超伝導を制御することに世界で初めて成功し、超伝導状態でのスピン(磁気)が通常の状態に比べて100万倍も安定であることを見出しました。
日本原子力研究開発機構(理事長・岡﨑俊雄)量子ビーム応用研究部門の早川岳人研究主幹、先端基礎研究センターの千葉敏研究主幹、国立天文台(台長・観山正見)理論研究部の梶野敏貴准教授らの共同研究グループは、これまで宇宙における起源が不明であったTa-180(タンタル180)1)が、超新星爆発2)において発生する膨大な量のニュートリノ3)による核反応で生成したことを理論的に明らかにしました。
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡﨑俊雄、以下「原子力機構」という。)先端基礎研究センター放射線作用基礎過程研究グループの林銘章任期付研究員(副主任研究員)および勝村庸介グループリーダーらは、国立大学法人東京大学(総長 濱田純一)大学院工学系研究科原子力専攻の室屋裕佐助教、フランス・パリ南大学(学長 Guy Couarraze)物理化学研究所のMehran Mostafavi教授らとの国際共同研究により、短パルス幅の放射線を照射するパルスラジオリシス1)の手法を応用して、室温から超臨界状態にわたる高温高圧水の放射線分解挙動2)をピコ秒の時間分解能で観測することに、世界で初めて成功しました。
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡﨑俊雄、以下「原子力機構」という。)先端基礎研究センター放射線作用基礎過程研究グループの藤井健太郎研究員らは、大型放射光施設(SPring-8)の軟X線1)を用いて選択的にDNA損傷2)を誘発させることに世界で初めて成功しました。これにより、将来、DNAの修復に関する医療等の研究分野やDNAをナノデバイスとして利用する産業開発等の分野において、新たなDNA操作技術への応用が期待されます。
独立行政法人日本原子力研究開発機構【理事長 岡﨑俊雄】(以下、「原子力機構」)の先端基礎研究センター極限環境場物質探索グループの小野正雄研究員らと丸和電機株式会社(以下、「丸和電機」)技術部回転機械課の末吉正典らは、超重力場(地上の重力の数十万倍の遠心加速度場)(1)を用いて「固体」や「液体」状態にある物質中の同位体(2)を分離する方法の実現のカギとなる超遠心機(3)ロータを世界で初めて開発しました。
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡﨑俊雄、以下「原子力機構」と言う)先端基礎研究センターの鈴木義規博士研究員及び大貫敏彦研究主席らと国立大学法人名古屋大学(総長 平野眞一、以下「名古屋大」と言う)エコトピア科学研究所の榎田洋一教授との共同研究グループは、微生物(鉄還元菌1))を用いて白金族元素2)ナノ粒子(1mmの一万分の一以下の粒子)3)を作製することに成功しました。さらに、この材料を水素と重水素の同位体交換4)の触媒として用いると最大で従前比6倍もの高い有効性を示すことを世界で初めて明らかにしました。
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡﨑俊雄、以下「原子力機構」という)先端基礎研究センターの松本吉弘博士研究員と境誠司副主任研究員は、大学共同利用機関法人自然科学研究機構分子科学研究所(所長 中村宏樹、以下「分子研」という)の横山利彦教授、国立大学法人東北大学金属材料研究所(所長 中嶋一雄、以下「東北大金研」という)の高梨弘毅教授、三谷誠司准教授、及び国立大学法人東京大学大学院理学系研究科(以下、「東大」という)の島田敏宏准教授らと共同研究で、フラーレン(C60)1)-コバルト(Co)2)薄膜の巨大トンネル磁気抵抗(TMR)効果3)が、同薄膜中の磁性を持つC60-Co化合物に局在するスピンにより、電気伝導に関わる電子のスピン4)の向きに大きな偏り(スピン偏極)が生じるために発現することを明らかにしました。
独立行政法人日本原子力研究開発機構【理事長 岡﨑俊雄】先端基礎研究センターアクチノイド化合物磁性・超伝導研究グループの神戸振作研究主幹らは、核磁気共鳴(NMR)法1)を用いた実験により、これまで謎であった絶対零度(-273℃)で起こる未知の相転移(量子相転移)2)を明らかにしました。