図:各原子核における優勢な崩壊様式の理論予測(KTUY模型)
原子核は陽子と中性子の複合体であり、その組合せで核種が定まります。現在までに3000核種ほどその存在が確認されていますが、理論的にはそれ以上の原子核が存在するとされています。原子核がどこまで存在しうるかというのは原子核物理研究にとって基本的かつ重要なテーマであり、特に陽子数(原子番号)114、中性子数184付近の原子核は、比較的長寿命で存在しうるという理論的予測が古くからなされており、この原子核の実験的合成に向けて現在世界中でしのぎを削っている状況です。我々ば原子核の存在限界に関する研究を進めています。
上図はその理論的成果の一例です。私たちは、巨視的模型+平均場理論計算を基にした、KTUY(小浦−橘−宇野−山田)原子核質量模型と呼ばれる手法を開発しました。これは、平均場理論計算部分を原子核の球形状態の重ねあわせで記述するという点が主な特徴で、これにより広い核種領域にわたり原子核質量を高精度で再現することが可能となりました。この質量模型を用い、原子核の質量エネルギー及び原子核の崩壊様式について、極めて大域的な核種領域にわたり計算を行い、その性質を調べました。図はどの崩壊様式が主要かを示した計算結果です。陽子数(原子番号)114個、中性子数184個付近の長寿命性(数百年程度)を示したのと同時に、この領域以外にも比較的長寿命で存在しうる領域がある可能性を見いだしています。それは中性子数126付近の中性子欠乏側の領域及び中性子228付近の中性子欠乏側です(図中で岬のように縦に伸びている領域)。
原子核は中性子欠乏側では一般にクーロン力の反発力のため、陽子放出や自発核分裂の形で容易に壊れてしまいますが、中性子数が126、184、228では原子核の閉殻構造のために比較的安定に存在しうるのです。また、中性子数184以上の原子核についてもβ崩壊優勢核種の領域(青)が広く分布しており、原子核の存在領域が通常考えられたものより広く分布していることを示しました。
今後、さらに探求領域を広げ、また、極限状態の原子核がどのような性質を持っているかを調べていきます。