ここでは、我々のグループの最近の研究成果について紹介します。現在、このページには、以下のハイライトがあります。:
- YbRh2Si2のNMR研究
- CePt2In7のNMR研究
- CeCoIn5のNMR研究
- AmO2のNMR研究
- CeIrIn5のNMR研究
- PrPb3のμSR研究
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強相関電子系の金属では、通常の場合、基底状態の低エネルギー励起は、ランダウのフェルミ液体理論で理解できる。量子臨界点 (T=0) 近傍においても、均一なフェルミ液体状態が観測される。しかし、重い電子系YbRh2Si2の量子臨界点近傍では不均一な電子状態が実現されていることを見いだした。この新しい不均一な電子状態は、フェルミ液体と非フェルミ液体状態の"まだらな"電子状態として記述できる。面白いことにこの"まだらな"電子状態は、外部磁場によって均一な電子状態へと制御できる。
興味がある方は、次の論文を参照してください。:S. Kambe et al., Nature Physics 10, 840 (2014).
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(Left) 様々な磁場条件で測定したYbRh2Si2における29Si-NMR緩和率の温度依存性. (Right) NMR緩和率測定の結果、判明した量子臨界点近傍における"まだらな"電子状態。
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重い電子系反強磁性体CePt2In7は、約3 GPaの圧力で超伝導を誘起することが出来る。圧力下で115In核NQR/NMRを行い、微視的に温度-圧力相図を決定した。P*~2.4 GPa付近に4f電子の遍歴-局在転移があり、この圧力付近で反強磁性秩序が非整合タイプから整合タイプに変わる。その後、Pc~3.4 GPaをかけると反強磁性秩序は完全に消失する。P*とPcの間で、整合反強磁性秩序と超伝導は共存する。
興味がある方は、次の論文を参照してください。: H. Sakai, Y. Tokunaga, S. Kambe, F. Ronning, E. D. Bauer, and J. D. Thompson, Phys. Rev. Lett. 112 (2014) 206401.
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(Left) CePt2In7の結晶構造. (Right) CePt2In7の温度-圧力相図。
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重い電子系超伝導体CeCoIn5の59Co核NMRを行った。結晶のc軸方向に磁場をかけたときの通常状態におけるNMR緩和率を測定した。極低温において、上部臨界磁場Hc2(0)直上において、動的帯磁率を反映する緩和率の増大を観測した。これは、反強磁性不安定性がHc2(0)近傍にあることを直接示すものである。2次元反強磁性SCR理論を用いて解析し、得られたパラメータを用いると、比熱や熱膨張などの他の物理量について、過去の実験データを再現することができた。
興味がある方は、次の論文を参照してください。: H. Sakai, S. E. Brown, S.-H. Baek, F. Ronning, E. D. Bauer and J. D. Thompson, Phys. Rev. Lett. 107 (2011) 137001.
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(Left) 重い電子系超伝導体CeCoIn5のc軸方向に磁場をかけたときの、各磁場における59Co核NMR緩和率を温度で割った1/T1Tの温度依存性. (Right) 絶対温度0 K近傍の反強磁性スピン揺らぎの磁場依存性を示した概念図。
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二酸化アメリシウム (AmO2) のNMR研究を初めて行った。30年以上前に帯磁率測定によって8.5 Kにおいて何らかの転移が起こることが示唆されていたが、微視的に如何なる転移が起こっているのかは明らかとなっていなかった。90 %に 17O 核を濃縮した 243AmO2 の粉末試料を用意し、 1.5 K から200 Kまでの 17O-NMR 測定を行った。17O-NMR信号強度は、 8.5 K 以下で急激な減少を示し,1.5 K において、~14 kOe にわたって極端に拡がった 17O-NMR スペクトルを観測した。これらのデータは、初めて AmO2 における 8.5 K の転移が、バルクで起こっていることを微視的に初めて明らかにするものである。加えて、17O-NMR スペクトルは常磁性状態においても、2つのピークをもつことがわかった。こうした常磁性状態における二つの 17O-NMR ピークの分裂は、UO2 や NpO2 などの他のアクチノイド二酸化物では、観測されない。この分裂は、243Am の α 崩壊に伴う、自己照射効果を反映したものであると考えられる。 興味がある方は、次の論文を参照してください。:Y. Tokunaga, T. Nishi, S. Kambe, M. Nakada, A. Itoh, Y. Homma, H. Sakai and H. Chudo, J. Phys. Soc. Jpn. 79, 053705 (2010).
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(Left) 約 7 T の磁場を用いたT > 6.5 K における 17O-NMR スペクトルの温度依存性。 内挿図は 120 K における double-Gaussian フィットした例. (Right) T0 以下と T0 以上の温度における 17O-NMR スペクトルの比較。半値全幅はそれぞれ、10 K において 0.42 kOe、 1.5 Kにおいて 7 kOe。(Oe は、磁場の単位。10 kOe = 1 Tesla。)
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重い電子系超伝導体 CeIrIn5 の 115In 核 NMR を行い、そのスピン格子緩和時間の詳細な解析から、動的帯磁率の虚部 Imχ(q, ω) の反強磁性秩序ベクトル Q 近傍の低エネルギー (~0.0001 meV) 領域におけるエネルギー、波数、温度依存性を見積もった。その結果、 Imχ(q, ω) は T-3/2、反強磁性磁気相関長 ξ は、T-3/4 の温度依存性を示すことがわかった。このことは、スピン波不安定性を示す3次元反強磁性体の臨界挙動として理解できる。 興味がある方は、次の論文を参照してください。:S. Kambe, H. Sakai, Y. Tokunaga and R.E. Walstedt, Phys. Rev. B 82, 144503 (2010).
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(Left) CeIrIn5 における温度圧力相図の概念図。 (Right) 格子定数 a = 4.666 Åを単位としてプロットした面内磁気相関長の温度依存性。
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正ミュオン μ+ を f 電子系化合物 PrPb3 に打ち込んだ際、μ+ スピンと最近接サイトの Pr 核スピンにより新奇なスピン結合状態 Pr - μ+ - Pr が形成されることを μ+SR 法により明らかにした。この結合には Pr の f 電子が関与しており、これまでに報告されている μ+ スピンと核スピンによる少数スピン系とは全く異なる形成要因をもつことがわかった。 興味のある方は、次の論文を参照してください。: T. U. Ito, W. Higemoto, K. Ohishi, N. Nishida, R. H. Heffner, Y. Aoki, A. Amato, T. Onimaru, and H. S. Suzuki, Phys. Rev. Lett. 102, 096403 (2009).
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PrPb3 における零磁場 μ+SR スペクトル。最近接サイトの Pr 核スピンの影響を受けて μ+ スピンが回転している様子を表している。挿図はスピン結合状態 Pr- μ+ -Pr の概念図であり、青い矢印は超微細相互作用によって誘起されたf電子の磁気モーメントを表している