研究内容Research Activity

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エキゾチックハドロンとチャームバリオンの研究

 原子核を作る陽子や中性子に代表されるハドロンは、クォークやグルーオンと呼ばれる 素粒子から作られています。 クォークやグルーオンがハドロンを作るメカニズムは、 ゲージ不変原理に基づく量子場の理論、量子色力学(QCD)によって表されます。 QCDは、低エネルギーで粒子間に働く力の構造が複雑でかつ強いため、 なかなか厳密な計算ができません。 それでも、QCDの性質を取り出して簡単化した模型 あるいは有効理論を作って解析をしたり、離散化した場の理論を数値的な手法によって 解いたりして、実験データに対応する物理量を求めます。
 一方、21世紀に入ってからこの15年ほどの研究で、クォークやグルーオンが驚くほど多彩なハドロン励起を与え、また、高温度や高密度などの外的条件下でさまざまな新奇状態を作り出すことが解ってきました。 たとえば、クォークを4個以上含むような新しいハドロン(テトラクォーク、ペンタクォーク)や、グルーオンが中心的な構成要素となるハドロン(グルーボール)などが予言されていて、 実際にその一部の候補が発見されています。 また、バリオン密度が高い物質中では、クォークによる超伝導状態も予想されます。 このようなハドロン状態を人工的に作り出すことが、KEKBやJ-PARCなどの加速器実験の目的の1つです。
 我々のグループ(実験)では、KEKBのデータを解析して、様々なチャームバリオンの構造を研究する一方で、J-PARCにおける将来の実験(E50実験)に向けた準備を進めています。
 理論グループでは、クォークの自由度を特に取り出して簡単化した模型(クォーク模型)を 用いた重いクォーク(ストレンジネス、チャーム、ボトムなど)を含むハドロンのスペクトルや 相互作用の解析、 QCDの相関関数の解析的な性質を利用したQCD和則という手法による ハドロンの質量やスペクトル関数の計算や有限温度や有限密度中でのハドロンの性質の変化の解析、 格子QCDを用いた重いクォークを含むハドロンの質量や構造(形状因子)の計算などのプロジェクトを進めています。

Hダイバリオンの研究

ハドロンは3つのクォークから構成される「バリオン(qqq)」とクォーク・反クォーク対からなる「メソン(qq)」があります。さらにエキゾチックな状態としてクォーク6個から構成される粒子のことを「ダイバリオン(qqqqqq)」と呼びます。特にuuddssクォークから構成されるダイバリオンのことを「Hダイバリオン」と呼び、1970年代に提唱されて以来、その存在について活発な議論が行われています。1990年代にかけてHダイバリオンの崩壊をとらえる実験がKEKやBNLでおこなわれたものの、束縛状態として観測はされませんでした。2010年ごろから格子QCDの理論計算でSUf(3)のシングレットチャンネル(=Hダイバリオン)は束縛する可能性があるという計算がされました。これを機に我々のグループは実験的にHダイバリオンの生成を試みようとしています(J-PARC E42実験)。HダイバリオンはΛ粒子(uds)2個に崩壊したり、Λpπに崩壊したりします。この崩壊粒子を3次元飛跡検出器(HypTPC)で測定し、不変質量を計算することでHダイバリオンの測定をしようと試みています。

検出器開発ーHypTPC

我々が開発している3次元飛跡検出器(HypTPC)は106Hz程度のビームも同時に測定することを目指して高レート耐性の検出器として開発しています。そこで、トリガー生成時のある一定の時間(約10マイクロ秒)だけ検出器をアクティブにするための「GATE機能」を持たせるようにしています。また、電離電子増幅部にはGEMを用いることで増幅時の電子の拡がりを抑え、増幅時に同時に生成される正イオンをGEMで吸収させることでドリフト電場の乱れ、ゆがみを抑えます(イオンバックフローの抑制)。飛跡の運動量解析により、不変質量の分解能1MeV/c2程度を目標にしており、これを達成するために検出器のテストを進めています。

ダブルラムダハイパー核の研究

 原子核に「Λ粒子」や「Σ粒子」や「Ξ粒子」といったストレンジクォークを含むバリオンが加わったものを「ハイパー核」と呼びます。さらにΛ粒子を2個含むダブルラムダハイパー核、Ξ粒子を1個含むグザイハイパー核といったストレンジクォークを2個含む原子核を「ダブルストレンジネス核」と呼びます。ハイパー核は地球上では安定に存在できず、その寿命は10のマイナス10乗秒ほどで、私たちの身の回りにある物質を形成する部品とはなりえません。 しかしこれらは、原子核の多様性、ひいてはクォークがどのようにバリオンや原子核といった構造を形成するのかを理解するうえで重要な研究対象です。
 我々はダブルストレンジネス核を従来の10倍以上の統計量で検出する実験「J-PARC E07」を推進しています。 ダブルストレンジネス核の検出と解析には原子核乾板(通称エマルション)と呼ばれる特殊な写真乾板を用います。 この写真乾板に記録された事象を光学顕微鏡を使って探索します。 この工程を効率的に行うため、"KURAMAスペクトロメータ"によって'p'(K-,K+)Ξ-という事象を選択し、 ダブルストレンジネス核の素となるΞ-が乾板に突入した箇所をSSDで特定したうえで 、Ξが原子核に吸収されるまでを顕微鏡下で追跡していきます。
 2019年4月現在、写真乾板の解析は計画の約4割程度です。この中から、新種のダブルラムダハイパー核を検出しました。
* 新種の超原子核(二重ラムダ核)を発見 中性子星の内部構造の謎に迫る? 「美濃イベント」と命名
* 基礎科学ノート Vol.25 No.1 (Mar.2019) 通巻40号 J-PARCでのダブルハイパー核検出実験
 さらにE07では、ゲルマニウム検出器"HyperBallX"を用い、Ξ-原子から発せられるX線の観測も狙っています。

重イオンで探るQCDダイナミクス

 SPS, RHIC, LHCの重イオン衝突実験においてQGP(クォークグル―オンプラズマ)が発見され、その性質が研究されている。これらの高エネルギー重イオン衝突で生成したのは高温、低バリオン密度の状態であるが、そこではハドロン相からQGP相への相転移は明確な相転移ではなく、滑らかなクロスオーバーであることが明らかになった。現在の重イオン物理の最重要課題の一つは、QCD相図の高密度領域で臨界点、相転移境界線等の相構造を解明することである。
 現在のJ-PARCの3GeV Rapid-Cycling Synchrotron (RCS)と50 GeV Main Ring Synchrotron (MR)は陽子加速器であるが、リニアックとブースターリングからなる重イオン入射器の建設により、重イオンを加速することが可能である。このエネルギーの重イオン衝突では、原子核の7-8倍程度の中性子星内部に匹敵する高密度物質が生成され、QCD相図の一次相転移境界線や臨界点の探索が可能であると期待されている。さらに中性子星内部におけるハドロンの性質や核物質の状態方程式(EOS)を研究することも可能である。ウランまでの重イオンビームを核子当たり1-20 GeV(√sNN=2.0-6.2GeV)に加速し、世界最高のビーム強度10^11 Hzを達成することを目標としている。2016年にLetter-Of-IntentをJ-PARC PACに提出し、現在Proposal作成の準備を進めている。現在のところ実験開始の目標は2025年である。

ハドロン質量の起源

 どんな“もの”にも必ず質量があります。10のマイナス15乗メートル(1須臾《しゅゆ》メートル!)という非常に小さなスケールまで物質を拡大して見ると、陽子や中性子がこの世の質量を担う最も小さな構成要素であることが分かります。しかし、その質量の起源は未だに明らかではありません。陽子や中性子は、大きさのない素粒子、クォークの多体系ですが、クォーク自身の質量は、陽子の質量のたった1%しかないのです。いったい残りの99%はどこからきたのでしょうか。
 実は我々の真空には、クォークとその反粒子である反クォークの対やグルーオンが満ち満ちています。これは、クォークの動力学である量子色力学(QCD)独特の現象です。“質量”の正体は、これらとの相互作用によって感じるインモビリティ(非可動性)だと考えます。従って、真空におびただしく凝縮しているクォーク・グルーオンの場を、非常に高い運動エネルギーを与えてふるいおとすか、あるいは強い外場をかけることによって融かせば、ハドロン(陽子や中性子などクォーク多体系の総称)の質量は軽くなると期待されます。我々は、原子核という高密度の物質内にハドロンを置き、その質量がどう変わるかを測定しようとしています。
 まもなくJ-PARCハドロン実験施設に新しく高運動量ビームラインが完成します。ここでは30GeVまでの一次陽子をビームとして取り出すことができます。この陽子ビームを薄い原子核標的に照射し、生成されたハドロン、特にφ中間子の質量を測定します。φ中間子はストレンジクォークと反ストレンジクォークの束縛状態で、系の密度とともにその質量が軽くなることがQCDに基づいた理論計算から予想されています。特に最近の理論研究は我々のグループが世界をリードしています*。φ中間子は光子と同じ量子数を持つため、レプトン対に崩壊することができます。レプトン対は、それ自身は系の温度・密度に応じて変わる質量を持たず、物質中での攪乱もほとんど受けないため、ハドロンの諸性質を調べるのに大変よいプローブとなります。一方、レプトン対の測定は実験的に多くの技術を要します。我々は、10MHzの高レートに対応した新しい大立体角スペクトロメータを製作し、この謎を解明するために準備を進めています。
*理論研究参照

Official J-PARC E16 web;
http://ribf.riken.jp/~yokkaich/E16/E16-index.html

KbaN相互作用とK原子核の研究

準備中