東京工業大学理学院物理学系

髭本研究室

本研究室について

 本研究室では超伝導体や磁性体、半導体をはじめとした様々な物質の研究を行っております。メインの手法は素粒子ミュオンを用いた「ミュオンスピン緩和測定(μSR)法」というものになります。この手法は粒子線(ビーム)を利用した実験で、大型加速器を用いるため物性実験としては規模の大きな実験です。 研究室の本体は大岡山キャンパスではなく加速器施設がある茨城県東海村となります。また大阪、カナダ、イギリス、スイスにある装置も利用しての研究を展開しております。

 本研究室は日本原子力研究開発機構との連携講座として開設されております。

研究内容

 本研究室では素粒子ミュオンを用いた物性物理学研究を行っております。ミュオンは電子と同じ「レプトン」に属する粒子で、宇宙線にも含まれております。このミュオンを大量に作るために必要なものが 高エネルギーまで陽子を加速できる「加速器」です。我々は主に茨城県東海村の日本原子力研究開発機構の敷地内にある大型の陽子加速器J-PARCを用いての実験を実施ております。この加速器では3ギガ電子ボルトまで加速した陽子を炭素標的に当てることで、パイ中間子を生成、その崩壊で得られるミュオンを集めて物性研究に用います。ミュオンはスピンをもっており、2.2マイクロ秒の平均寿命で崩壊する際に生じる陽電子は崩壊直前のミュオンのスピン方向に飛び出す確率が最も高いために、陽電子の飛来方向を調べることで物質内部でのミュオンのスピンの挙動を知ることができます。このミュオンスピンは、物質内部の電子や原子核が作る磁場により向きを変えることから、物質内部での電子や原子核の状態を知ることができます。この手法をMuon Spin Rotation/Relaxtion/Resonannce(µSR法)と言います。我々はµSR法を主たる研究手法として、J-PARCを中心に、相補的なデータが得られるTRIUMF研究所(カナダ)Paul Scherrer Institut(PSI,スイス)、Rutherford Appleton Laboratory(RAL, 英国)さらに大阪大学核物理研究センターのミュオン実験装置(MuSIC)を用いて研究を展開しております。
   µSR法は「微視的測定」と言われ、抵抗測定や比熱測定といった「巨視的測定」とは異なる情報を得ることができます。例えば複数の状態が混ざった系において、微視的測定ではそれぞれの状態を追うことができるなど、様々なメリットがあります。さらに感度の高さや独自の時間窓の測定など、ユニークな物理を得ることができます。

以下のような物性を中心とした研究と装置開発を行っております。

超伝導体
 超伝導とは低温で電気抵抗がゼロになるとともに完全反磁性(マイスナー効果)を示す現象です。応用の面から重要ですが、基礎科学の観点からも大きな興味がもたれており、その発見から100年経った今日でも未解決の問題が数多くあります。超伝導体は2つの電子が対を作り、その2つの電子の間に働く引力相互作用が起源となります。多くの超伝導体がBCS理論で説明されるのに対し、銅酸化物超伝導体をはじめとした電子相関が強い系における超伝導現象はBCSとは異なるメカニズムによるものと考えられております。 実験的に超伝導を理解するにはその2つの電子がどのような対を形成しているのか、あるいは超伝導ギャップ構造を調べることが重要となります。 我々はµSR法により時間反転対称性やスピン対称性といった超伝導対称性や超伝導ギャップ状態、磁性との相関などの基本的な情報を調べております。

磁性体
 磁性体、と一言で言っても様々なスピン状態があり、どのような基底状態を持つのかなど様々な興味がもたれております。例えばスピンフラストレートした磁性体における基底状態は単純には決まらず、様々な測定が必要となります。近年、低温でもスピンが秩序化しないスピン液体状態も特にその基底状態に強い興味がもたれております。本研究室では極低温におけるµSR実験により量子スピン系の基底状態などを調べております。

その他、物質内部での水素状態の研究など、ミュオンを用いて様々な性質の材料の研究を行っております。    

メンバー(2024年度)

主宰
髭本亘(ひげもとわたる)
東京工業大学理学院物理学コース 特任教授
日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター/J-PARCセンター 研究主幹

大学院生

  • 齋藤奨太(M2)
  • 佐藤泰海(M1)
  • 進学を希望される方へ

    本研究室は大学院修士課程の学生が所属いたしております。興味を持たれた方、詳しい説明を望まれる方は以下にご連絡いただくか、大学院進学説明会にご参加ください。

    e-Mail higemoto.wataru(at)jaea.go.jp

    リンク

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  • 日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター
  • J-PARCセンター
  • 大阪大学核物理研究センターMuSIC