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10周年記念シンポジウム学術講演

ウラン化合物における磁性と超伝導の新たな展開

                             大貫惇睦
                                            ウラン電子系研究グループ 
                                                グループリーダー 大阪大学教授
 

Recent Development of Magnetism and Superconductivity Studies in Uranium Compounds

Yoshichika ONUKI
Research Group for Uranium-based Electron System
Graduate School of Science, Osaka University

 Recent our activities on experimental research in uranium compounds are reviewed. We have succeeded in growing high-quality single crystals of heavy fermion uranium compounds using a purified uranium metal by means of the electrotransport method under ultra-high vacuum. These samples enable us to reveal the electronic structure of many uranium compounds including heavy fermion superconductors such as UPt3 by de Haas-van Alphen effect at very low temperautres. On the other hand, high-pressure techniques have been developed to study quantum-critical phenomena which appears around the critical pressure where magnetic transition temperature is suppressed to 0 K. Very recently we have found the pressure-induced superconductivity in a ferromagnet UIr near the critical pressure.

1. はじめに
 
ウラン化合物は、5f電子に起因する多くの興味深い物性を示す。その中でも、重い電子系超伝導は、世界的に注目を集め、実験理論両面からの精力的な研究が行われている。我々は、先端基礎研究センターが発足した翌年から10年間にわたって研究を行ってきた。最初の5年間は、「ウラン化合物超伝導研究グループ」として、ウランの5f電子が引き起こす特異な超伝導の解明を目的として研究を行った。
  UPt3やUPd2Al3など、ほとんどのウラン化合物超伝導体において世界最高純度の単結晶育成に成功し、UPt3における奇パリティ超伝導の発見や、UPd2Al3における超伝導と密接に関係した磁気励起ギャップの発見など、多くの成果につながった1,2)。第2期の5年間では、研究対象を拡げ、さらに多くのウラン化合物の研究を行った。
  これらは、磁気秩序を示す化合物、重い電子系、パウリ常磁性体、絶縁体など、極めて多彩な性質を示す。我々は、ドハース・ファンアルフェンファン(dHvA)効果による電子状態の研究を発展させ、多くの場合に5f電子が磁気モーメントを担うと同時に、遍歴状態にあることを明らかにしてきた。本講演ではこの10年間に得られた主要な成果を紹介する。

2. ウランの精製と単結晶育成


図1 超高真空エレクトロトランスポート法によるウランの精製と不純物の分析結果

 極低温での電子物性の研究には極めて純良な単結晶が不可欠であり、これを達成するために、まず原料ウランの精製を行い、超高真空エレクトロトランスポート法が極めて有効であることを示した4)。この手法では、超高真空中におかれた金属ウランに大電流を流すことによって融点直下まで加熱し、電流による不純物のはき寄せ効果と、温度勾配による拡散で不純物を除去する。

  前者の効果は、特にFeをはじめとする遷移金属不純物に対して極めて効果的である。Feの場合、精製前には40 ppm含まれていたが、これを1.5 ppmにまで減少させることができた。一方熱拡散効果はAlなどの不純物に対して見られた(図1)。もちろん、脱ガス効果としても有効である。この精製技術が応用され、鉄における圧力誘起超伝導の発見にもつながっている5)。
 
このように精製したウランを用いて、多くのウラン化合物単結晶の育成に成功した。UPt3をはじめとするウラン化合物超伝導体は、テトラアーク炉による引き上げ法と、超高真空中でのアニールにより、残留抵抗比700の極めて純良な単結晶が得られた。また、フラックス法、気相成長法やブリッジマン法など、多彩な結晶育成方法を駆使して、20以上のウラン化合物単結晶を育成した。

 

2. 重い電子系ウラン化合物の研究

図2 重い電子系化合物の超伝導混合状態におけるdHvA振動

図3 UPt3で観測された、サイクロトロン有効質量      85m0を有 する重い伝導電子

 ウラン化合物では、5f電子が磁性と伝導の両方を担っており、低温でいわゆる重い電子状態が出現する。伝導電子の有効質量が自由電子の100倍程度に増大する。また、重い電子状態超伝導では、これらの重い伝導電子がクーパー対を形成していることが示唆されている。

  我々はこのような特異な電子状態を明らかにするために、ドハース・ファンアルフェン(dHvA)効果の測定を行った。ここでdHvA効果は、磁場中での物理量の量子振動現象である。その振動数からフェルミ面の大きさが得られ、振動振幅の温度依存性から有効質量が、また振幅の磁場依存性から伝導電子の散乱緩和時間が得られる。

  温度や不純物による散乱は振幅を著しく減少させるため、この効果を観測するためには、極めて純良な単結晶試料と極低温が要求される。図2は、20mKの極低温でで観測されたUPt3のdHvA振動及びそのフーリエ変換である。最も大きな振動数を持つωブランチは、85m0の巨大な有効質量を持つことが明らかとなった。これは、電子間の強い相互作用の結果であると考えられる。
 
  我々はまた、超伝導混合状態でのdHvA振動の観測にも成功した7)。図3は重い電子系超伝導体で観測された超伝導混合状態のdHvA振動である。超伝導はフェルミ面の大部分にギャップを形成するためdHvA効果の観測が原理的に不可能であるが、磁場中では磁束の侵入により状態密度が回復するため、dHvA振動が観測されるようになる。ただしその振幅は常伝導状態に比べて著しく減少するため、観測は困難となる。

 20以上の純良単結晶に対するdHvA効果の実験を通して、ウラン化合物で初めて準2次元電子系をUX2(X: Bi, Sb, As, P)、UTGa5 (T: Fe, Pt)などで見出した。


3. 圧力下での電子状態の変化

 圧力は、電子状態を変化させる重要なパラメータの一つであり、圧力下での低温物性研究が最近急速に発展した。ウラン及び希土類化合物では、圧力による磁気転移温度の消失や、それに伴う量子臨界点付近での異常物性や超伝導相次いで発見され、関心が高まっている。

 我々はごく最近、強磁性体UIrにおいて、強磁性転移温度TCが圧力中で消失し、臨界圧力付近で超伝導が現れることを初めて発見した8)。図3aは、UIrのTcの圧力依存性である。常圧ではTc = 46 Kの強磁性体であるが、加圧とともに転移温度が減少し、1.7 GPa付近で消失する。さらに加圧すると、第2の強磁性相F2が現れ、この転移温度も圧力とともに減少し臨界圧2.6 GPaで消失する。図3bは臨界圧付近での電気抵抗の測定結果である。2.6 GPaでは150 mK以下で電気抵抗がゼロになり、超伝導が実現している。このUIrはdHvA効果の実験から準2次元電子系であり、超伝導転移温度を高める効果があることが分かった。しかし、強磁性的電子相関の状態での超伝導であること、更にはこの結晶には反転対称性が無いことが注目される。今後、理論上の議論の対象となるであろう。


図4 UIrの圧力相図及び臨界圧力付近で観測された超伝導

4. 今後の展開

 ウラン化合物では、他の物質では見られない磁性や超伝導が数多く実現しており、固体物理研究の宝庫であり、現在でも、毎年のように新しい物性を示す物質が報告されている。今後は、物質探索にも目を向け、新物質による新しい現象の発見に力を注ぎたい。
 先端基礎研究センターでは、本グループが純良単結晶育成とフェルミ面の研究を行い、NMRや中性子散乱グループと密接な協力のもとに物性研究を発展させ、これらを理論グループがバックアップするという、他の施設にはない充実した研究環境がある。さらに、最近では超ウラン化合物の研究も発展しつつある。これらを生かして、ウラン・超ウラン化合物の磁性と超伝導を系の物理を総合的に解明して行きたいと考えている。

参考文献
1) H. Tou et al.: Phys. Rev. Lett., 80 (1998) 3129.
2) N. Metoki et al.: Phys. Rev. Lett., 80 (1998) 5417.
3) Y. Onuki et al.: J. Phys.: Condens. Matter., 15 (2003) S1903.
4) Y. Haga et al.: Jpn. J. Appl. Phys., 37 (1998) 3604.
5) K. Shimizu et al.: Nature (London), 412 (2001) 316.
6) N. Kimura et al.: J. Phys. Soc. Jpn., 67 (1998) 2185.
7) Y. Onuki et al.: Physica B, 280 (2000) 276.
8) D. Aoki et al.: Philo. Mag. B 80 (2000) 1517.
9) S. Ikeda et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 72 (2003) 576.
10) T. Akazawa et al.: J. Phys. Condens. Matter. 16 (2004) L29.


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