Discovery of a pentaquark particle and a
new direction of the research group
for Inverse Compton Gamma-ray Spectroscopy
Mamoru Fujiwara
Research group for Inverse Compton Gamma-ray Spectroscopy
Impact of the pentaquark discovery at SPring-8 and
a new direction of the science developments with photo-nuclear reactions
are discussed. The Q+ particle has been found as a sharp resonance at
1.54 GeV. Another kind of pentaquark particles consisting of five constituent
quarks also found at CERN. These new kinds of matter may open the new
idea to discuss the Big Bang story. With a extra ordinary intense photon
beam, a new opportunity to study the nuclear synthesis processes in cosmos
and the basic symmetry physics. As a sample, a new way to study
the neutral weak-boson exchange processes in nuclei via the parity no-conservation
measurements are discussed.
1. ペンタ・クォーク粒子発見のインパクト
我々の物質の基本構造とされ、どの教科書にも説明されているクォーク物理のはじめの説明は以下のようなものである。1つのアップ・クォークに2つのダウン・クォークを加えると中性子になります。1つのダウン・クォークと2つのアップ・クォークは陽子を作ります。また、1つのクオークと1つの反クオークを加えると中間子になります。宇宙を構成する全ての物質を理解する基本は、この簡単な処方箋で始まります。この処方箋に、クォーク同士を結びつけるグルーオンを入れて量子色力学的考察をすれば、現在までに実験で観察されて来た、500以上もあると思われる、すべてのバリオンの質量スペクトルが説明されるかのように教科書では説明されています。
しかし、理論の枠組みの範疇では、クォークが3つの組み合わせ以外を禁止する明らかな理由はなかったのです。30年以上もの間、対になって中間子を構成するクォークと3つ集まって中性子や陽子などのバリオンを構成する以外の4つ、5つ、6つのクォークの組み合わせのバリオンが発見できるかの探索が行われましたが、ほとんどは確定性に疑問のあるものでした。ところが、SPring-8で最大エネルギー2.4
GeVの逆コンプトン・ガンマ線を用いて実験を行っていたLEPSグループは、ガンマ線と炭素原子核内の中性子が衝突し、終状態として中性子、K+中間子、及びK-中間子となる反応が探索し、1.540
GeVに2つのアップ・クォークと2つのダウン・クォーク及び1つの反ストレンジ・クォークから成り立っているという、信じられないような粒子があることを報告しました
[1]。この発見に至った経緯はすでに原研ノートに説明を与えているので[2]、このノートではその後に世界で起こった様々な研究動向の波紋について簡単に説明します。
5個のクォークから構成されていると思われるこの粒子は、世界の他研究所で行われた実験でも、確認が行われ、その存在の信頼度は益々高まっています[3,4,5]。今、この粒子は5つのクォークからなるバリオンとしてペンタ・クォーク粒子と呼ばれています。また、最近CERNでの実験データの再解析が行われ、違う種類のペンタ・クォーク粒子がdsds_uやdsus_dの組みあわせの候補として1.862
GeVに発見されたという報告もなされました [6]。 長年、3つ以上のクォークの組み合わせ以外はないような閉塞感にとらわれていたバリオン物理に大きな発見がもたらされたといえます。このような発見が、高エネルギー物理の本格的研究所でなくて、SPring-8のようなシンクロトロン放射施設で行われたということも世界の関心を集め、2003年の物理での最大の発見の一つとしても大いに宣伝されました
[7.8]。
ストレンジ・クォークが入るとなぜ3つ以上のクォークでも強く結合されたシステムが出来あがるのかという自然な疑問もあります。原子核ではこのようなことは多く見られます。たとえば、9Be原子核です。8Beは不安定で2つのアルファ粒子にすぐに崩壊しますが、中性子が1個加わると9Beは安定になります。これは中性子が二つのアルファ粒子を結びつける役割を果たすからです。ストレンジ・クォークが同じような役割をしているのかどうかは、これからの研究で解明されると思われます。また、他のクォーク、トップ・クォークやボトム・クォークを含むペンタ・クォーク粒子も存在するかも知れません。
もし、多数のクォークから構成されるバリオンが一瞬でも存在するとすれば、我々の宇宙観がどのようになるかを考えるのも面白い研究課題です。ビッグバン宇宙では、はじめに光があり、すべての物質は高エネルギー光による対創生で作られたと考えられています。クォークと反クォークは生成・消滅を繰り返し、基本的対称性が破れている程度(百万分の1以下)でクォークの出来る割合が大きいために、反物質は無くなり、現在の物質優勢の世界が作られて来たというのが、これまでの説明です。ビッグバン直後にペンタ・クォーク粒子、または6つ、7つ、8つの、一般にマルチ・クォーク粒子が出来るような脇道があれば、宇宙の冷える道筋がどのように変わるのかというのが重要な研究課題となるでしょう。宇宙創生のシナリオが大きく変わることはないにしても、考え無ければいけない研究課題です。また、アメリカ・ブルックヘブンで行われている重イオン・重イオン衝突での実験データの物理解釈にペンタ・クォーク粒子生成の過程を取り込む必要があるかも知れません。
現在、理論のもっぱらの関心は、このペンタ・クォーク粒子のスピン・パリティの決定です。これは、5個のクォークからなる新ハドロン物質の存在形態、理論の枠組みを作るための理論解釈を行う突破口を開くのはペンタ・クォークのスピン・パリティの決定であるというのが全世界の一致見解となっているからです。現在、ペンタ・クォーク生成の光核反応の理論について議論が行われ、100ほどの論文が世界の科学誌に投稿されています。現在のところ、残念ながら、SPring-8での実験でも、世界の他研究所の実験でも、粒子のスピン・パリティの決定には至っていません。このためには、偏極ガンマ線と偏極ターゲットによる実験が必要不可欠です。逆コンプトンガンマ線核分光研究グループでは、当初より、偏極水素重水素ターゲットの建設の必要性を力説していましたが、ようやくこのプロジェクトは大阪大学核物理研究センターのプロジェクトとして推進される計画になっています。偏極水素重水素ターゲットを用いた実験での大きな目標は2つあり、一つは、陽子や中性子にあるといわれる隠れた成分と呼ばれるストレンジ・クォーク成分を探ること、もう一つは、当然ながら、完全偏極量測定によるペンタ・クォーク粒子のスピン・パリティの決定です。
偏極した水素重水素の固体ターゲットを作る技術は、30年以上も前に提案されながら、本格的に実用化がなされていない技術です。このための技術開発はフランス・オルセーやアメリカ・ブルックヘブンで行われ、ようやく実用段階まで来ています。偏極水素重水素ターゲット製作に関しての技術協力の議論が5年前の逆コンプトンガンマ線核分光研究グループ発足当初から行われていましたが、ようやく、周囲の機運が高まったようです。
一方、SPing-8では、ストレンジネスを含む中間子の光ハドロン反応によるクォーク動力学の研究も行われており、K+中間子発生の非対称パラメータの測定 [9]、ファイ中間子のスピン偏極観測量の測定なども報告されています
[10]。ファイ中間子スピン偏極観測量測定では、光核反応機構での、ポメロン、グルーボール、2+メソンの役割が明らかになってきています。a0(980)メソンと強く結びついていると思われる、核子の共鳴状態があるのではないかと推察される観測事実も現れました [11]。従って、今後、SPring-8での光核反応によるバリオン分光学は、さらに発展するものと期待出来ます。
2.MeVガンマ線による光核反応物理
SPring-8は、世界最高のビーム安定性、エミッタンスを誇る放射光施設です。これまで、SPring-8での光源利用として、逆コンプトンガンマ線核分光研究グループは大阪大学、高輝度光科学研究センターと協力し、GeVガンマ線施設を作り、この施設でのハドロン物理での成果達成を行いました。現在、グループの次の目標として、発足当初から懸案となっていたMeVガンマ線施設での物理を行えるように、研究計画を策定しています。
これまで、SPring-8における低エネルギー・逆コンプトン・ガンマ線発生として、8 GeV蓄積電子と遠赤外レーザーを衝突させる手法を考えてきました。低エネルギー・逆コンプトンガンマ線発生では、散乱によって損失される電子エネルギーは30
MeV以下で8 GeVに比べて遥かに低く、逆コンプトン過程で散乱された電子は再度、蓄積リングを周回するという特徴があります。計算結果では、エミッタンスへの影響などを今後詰める必要はあるものの、アクセプタンスの観点からみてビームはリングを周回続けるので、他のビーム・ラインの実験への影響はほぼないと結論されています。その他、SPring-8では、超伝導ウイグラによる大強度・高エネルギー放射光発生にも成功しています。理想的な条件が整えば、毎秒1010というような世界最強のMeV光子ビームが発生可能であり、この光子ビームを用いた宇宙物理、核構造研究の大きな発展が期待されます。
MeVガンマ線ビームを用いた円偏向ガンマ線を用いる研究として、今まで考案されなかった蓄積リング中に周回する電子ビームの特徴を最大限に生かした初めての原子核パリティ非保存実験を目指しているので、この紙面を借りて、その研究の一端を紹介します。
パリティ非保存現象は自然界における基本的対称性と深く関係します。電弱統一理論では、ベータ崩壊を媒介する粒子として荷電ウィークボソン(W+,
W-)とニュートリノを散乱させる中性ウィークボソン(Z0)があり、ウィークボソンが絡んだ物理現象が、パリティ非保存現象を引き起こします。ベータ崩壊におけるパリティ非保存現象は、よく調べられてきましたが、中性ウィークボソン(Z0)交換過程でのパリティ非保存現象は必ずしも調べられて来たとは言い難いのです。
パリティ非保存実験では、鏡のなかの世界を人工的に作り、鏡映変換に対しての物理現象の破れを測定します。ベータ崩壊によるパリティ非保存現象はすでに40年以上に渡る詳細な研究により調べられて来ました。中性ウィークボソン(Z0)が介在する弱い力と強い力が絡むパリティ非保存現象の過程では、弱い力を媒介する中性ウィークボソンと強い力を媒介するパイ中間子、ロー中間子、オメガ中間子が絡む現象を解明できます。中性ウィークボソンが核媒質中で1個のクォークと1個の反クォークを対創生する過程がここでの問題です。物理としては、0.5
fm以下の短距離の現象です。ウィークボソンのクォーク対創生のパリティ非保存現象を解析する理論的枠組みはすでに、おおよそ構築されて来ました [12,13,14
]。 これはDDHの相互作用として知られているものです。弱い力と強い力の結合を表現している、パイ中間子(p)、ロー中間子(r)、オメガ中間子(w)と中性ウィークボソン(Z0)がスカラー型、ベクトル型に結合する6個の結合定数が未定の物理パラメータとしてあらわれます。これらの結合定数を実験的に求めるべく理論の粋を凝らした努力が行われたが、残念ながら、無矛盾な値を求めるには至っていません。実験のさらなる努力が必要とされている所以です。
3.PNC実験のこれまでの歴史とSPring-8での実験のアイデア
アメリカ・コロンビア大学の、LeeとYongの理論[15]に刺激され、60Coのベータ崩壊のパリティ非保存を実験していたWuらは1957年に、確実な実験証拠を発表しました[16]。その直後、ロシアのZel’dovichが、もしパリティが破れているならば、電気モーメントと磁気モーメントの二つのベクトルからの外積としての第3のモーメントが存在するはずであることを論じています[17]。このモーメントは、Anapoleモーメントと呼ばれ、1997年になって、ボーズ・アインシュタイン凝縮でノーベル賞をもらった、Wiemannグループによって、その存在の確実な実験的証拠が得られました[18,19]。133Csの6s1/2
→7s1/2遷移(これはパリティ混合が無い限り禁止)にE1遷移が混合するという実験証拠を提示したこの実験は、長年、原子物理学者が追及してきたもので[20,21]、レーザー技術の粋を結集して行われた輝かしい業績です。
原子核中での核子―核子相互作用レベルでのパリティ非保存についての実験研究の歴史も長い。この実験研究の最初の報告はTannerらによって1957年に行われて以来、1980年代半ばまで精力的に行われて来ました[22]。また、さまざまな理論的検討も加えられて来ました[23]。
これまでの研究では、ガンマ崩壊を測定し、ガンマ崩壊の非常に小さい円偏向度を測定し、円偏向度Pを測定していましたが、ガンマ崩壊を測定し、小さな1%以下の円偏向度を測定するのはきわめて困難で、かつ、長時間の測定を余儀なくさせられました。これは、ガンマ線円偏向度を測定するためにはコンプトン偏極装置といった、効率の悪い原理を使わざるを得なかったことによります。
SPring-8でのPNC実験のアイデアは今までの実験の逆を行うことです[24]。手順や実験の有利さについて、以下にまとめました。
1. 右巻き、左巻きの円偏向ガンマ線を原子核ターゲットに照射する。
2. 原子核の励起準位をガンマ線で励起(M1またはE1励起)
3. 核蛍光過程で励起された準位からの崩壊ガンマ線を高分解能ゲルマニウム検出器で測 定。崩壊ガンマ線は空間的に等方的に 放出される。
4. 右巻き、左巻きのガンマ線での励起非等方性Agを測定する。
5. 励起非等方性Agは直接にパリティ混合のマトリックスおよびE1、M1マトリックス と関係つけられる。
6. 励起非等方性Agは大きいものでは1%程度、小さいものでは10-5となる。
7. ほとんどあらゆる原子核の励起準位のパリティ混合が検出可能であり、軽い原子核から重原子核にわたる系統的研究が可能と なる。
8. 長期にわたって安定した電子ビームとエミッタンスの良いガンマ線、放射光が供給できSPring-8のような施設のみで、この研究 が可能である。
9. パリティの破れのすくない準位が励起準位として必ず存在するので、実験精度、系統的誤の評価はきわめて信頼出来る。
10. 同じスピン・パリティの準位が接近して存在していれば、E1、M1励起にのいずれかが大きなパリティ非保存効果を示すと期待 できる。
以上のように、今までにきわめて困難だと思われていた、実験研究が可能となるのは、優れた指向性、安定したビームを誇るSPring-8での実験だから出来ることです。この研究での究極実験は核構造の簡単な重陽子の光核分解反応を行うことですが、測定での非対称は10-8程度のものでこれは、まさに究極の実験となります[25]。しかし、アメリカ・ロスアラモスでは偏極中性子と陽子による重陽子生成でのパリティ非保存実験が行われており、10-8程度の非対称を測定しようとしています。
大強度MeVガンマ線を生かした、宇宙物理、原子核構造の実験は、日本のみならず世界の研究者からも注目を集めています。従来、この分野の研究は、電子線リニアックからの電子ビームをタングステンに照射し、そこからの制動輻射ガンマ線を用いて行われてきましたが、偏極ガンマ線の強度は低く、M1やE1励起が分離出来ないという欠点がありました。SPring-8での大強度ガンマ線発生が達成出来れば、今までの実験的障害であったものが一挙に取り除かれ、この分野の研究の一大発展につながるものと期待できます。
参考文献
[1] T. Nakano, et al., (LEPS collaboration) Phys. Rev. Lett. 91 (2003)
012002.
[2] 藤原 守、基礎科学ノート、11 (2003) 39.
[3] S. Stepanyan et al. (CLAS Collaboration), Phys. Rev. Lett. 91, 252001
(2003).
[4] V.V. Barmin et al. (DIANA Collaboration), arXiv: hep-ex/0304040.
[5] J. Barth et al. (SAPHIR Collaboration), arXiv: hep-ex/0307083.
[6] C. Alt et al., (NA49 Collaboration), Phys. Rev. Lett. 92, 042003 (2004).
[7] P. Schewe, J. Riordon, and B. Stein, Physics News Update 664 #1, 2003年12月3日.
[8] Discover Magazine, January (2004) pp. 45.
[9] R.G.T. Zegers et al., (LEPS collaboration) Phys. Rev. Lett. 91 (2003)
092001;
M. Sumihama, Doctor thesis, Osaka University (2003).
[10] T. Mibe et al. (LEPS Collaboration), Doctor thesis, Osaka University
(2004).
[11] T. Matsumura et al. (LEPS Collaboration), Doctor thesis, Osaka University
(2004).
[12] B. Desplanques, Phys. Rep. 297, 1 (1998).
[13] W. Haeberli and B.R. Holstein, “Parity violation and the nucleon-nucleon
system”, World Scientific Pub. Co. Pte. Ltd, edited by W.C. Haxton and
E. M. Henley, 1995, pp. 17-67..
[14] B. Holstein, in “Weak Interaction in Nuclei” Princeton University
Press.
[15]T.D. Lee and C.N. Yang, Phys. Rev. 104 (1956) 254.
[16]C.S. Wu et al., Phys. Rev. 105 (1957) 1413.
[17] Ya. B. Zel’dovich, Sov. Phys. JETP 6, 1184 (1957).
[18] C.S. Wood, S.C. Bennett, D. Cho, B.P. Masterson, J.L. Roberts, C.E.
Tanner,
and CE.Wieman, Science 275 (1997) 1759.
[19] C.S. Wood, S.C. Bennett, J.L. Roberts, D. Cho, and C.E. Wieman, Can.
J. Phys. 77 (1999) 7.
[20] Anapoleモーメントについての最初の実験についてはM.A. Bouchiat and C. Bouchiat, J. Phys.
(Paris) 35 (1974) 899.を参照。
[21]理論的側面については、たとえば、R.R. Lewis, Phys. Rev. A 48 (1993) 4107,
R.R. Lewis,Phys. Rev. A 49 (1994) 3376, A.J. Silenko, Prog. Theor. Phys.
101 (1999) 875. などを参照。および参考文献
[22] N. Tanner, Phys. Rev. 107 (1957) 1203; V.M. Lobashov et al., JETP
Lett. 5, 59 (1967); Phys. Lett. 25B 104 (1967); K.S. Krane et al., Phys.
Rev. Lett. 26 (1971) 1579; W.P Pratt et al., Phys. Rev. C2 (1970) 1499;
Ahrens et al., Nucl. Phys. A390 (1982) 486; Evans et al., Phys. Rev. Lett.
52 (1985) 791; Bini. et al., Phys. Rev. Lett. 55 (1985) 795; Adelberger
et al., Phys. Rev. Lett. 34 (1975) 402; Adelberger et al., Phys. Rev.
C 27 (1983) 2833; Elsener et al., Phys. Rev. Lett. 52 (1984) 1476; Earle
et al., Nucl. Phys. A 396 (1983) 221c.
[23]W.C. Haxton et al., Phys. Rev. C 65 (2002) 045502. 引用文献参照
[24] M. Fujiwara, Progress in Particle and Nuclear Physics, 50 (2003)
487-497
[25] M. Fujiwara and A.I. Titov, Phys. Rev. C submitted.
|