セラミックスは、耐熱・耐放射線に優れ、腐食に強く、化学的に安定であるため、機能材料として産業で用いられます。高価な先進セラミックスの付加価値をさらに高めるためには、限られたサイズで機能を集約したコンパクトな構造が求められます。本研究では、セリア(CeO2)の材料製造プロセスを調べたところ、小さなナノ結晶が集まり大きなナノ粒子となる階層構造を発見しました。この微粒子の分散と凝集は、電気二重層の反発力と拮抗する枯渇引力が生じるために安定化されることが分かりました。これは、有機高分子が含まれないプロセスでこれを明らかにした初のケースです。本成果は、微粒子が規則配列するときの結合様式を制御する集積ナノテクノロジーとして、新しい触媒や光学材料の製造技術の進歩に寄与することが期待されます。
本論文は Communications Chemistryの2024 Editors’Highlights(注目論文)に選ばれました。
URL : https://doi.org/10.1038/s42004-024-01402-0
DOI : 10.1038/s42004-024-01402-0
ワイル半金属は、古典電磁気学を超えた電磁応答を示すトポロジカル物質の一つであり、基礎研究のみならず、スピントロニクス機能性の観点からも注目されています。仮想的なゲージ場「カイラルゲージ場」を用いてワイル半金属の電磁応答を記述する試みがありますが、磁性ワイル半金属ではその構造に関する知見は限られていました。本研究では、巨大なスピン分極を持つ磁性ワイル半金属 Co3Sn2S2 に着目し、磁気構造とカイラルゲージ場描像の対応関係を有効模型に基づき示しました。この成果に基づき、磁性ワイル半金属における磁気構造に関連した様々な電磁応答の探索が期待されます。
本論文は Journal of the Physical Society of JapanのEditors' Choice(注目論文)に選ばれました。
URL : https://doi.org/10.7566/JPSJ.93.094704
DOI : 10.7566/JPSJ.93.094704
本研究では電子の運動を支配する「宇宙の構造」に相当する、量子状態が持つ構造「量子計量」を、室温・卓上の磁性体中にて実験的に制御することに世界で初めて成功しました。スピン(個々の原子が持つ磁気)が三角形状に配位したカイラル反強磁性体を用いた実験により、通常の金属とは異なる特異な電気伝導信号を捉え、この信号が印加磁場に追随して変化することを発見しました。理論モデルの解析により、この特異な電気伝導信号が、磁場で制御された量子計量に由来することを突き止めました。
この知見は量子計量が織りなす電気伝導現象を理解し利用していくための第一歩であり、今後、整流器やセンサー等の新規量子スピンデバイスへと発展していくことが期待されます。
本論文は Nature PhysicsのNews & Viewsで紹介されました。
URL : https://doi.org/10.1038/s41567-024-02476-2
DOI : 10.1038/s41567-024-02476-2
近年、ミュオンスピン緩和(μ+SR)法の新たな応用として、固体電解質におけるイオンダイナミクスの研究への適用が広く検討されています。しかし、多くの場合、ミュオンが観る「ダイナミクス」がイオンの運動によるのか、あるいはミュオン自身の運動によるのかは自明ではありません。本研究では、イオンダイナミクスの研究において標準的に用いられているミュオンスピン緩和関数を拡張し、それに基づいて二者の運動を区別し得ることを初めて示しました。本成果は、ミュオンが観ているものをより明確にし、より正確にイオンの運動を評価するのに役立つと期待されます。
本論文は Journal of the Physical Society of JapanのEditors' Choice(注目論文)に選ばれました。
URL : https://doi.org/10.7566/JPSJ.93.044602
DOI : 10.7566/JPSJ.93.044602
高梨弘毅センター長は、東北大学、物質材料研究機構および産業技術総合研究所の研究グループと共同で、金属多層膜の熱電変換性能を定量化する方法を提案・開発しました。金属多層膜はスピントロニクスにおいて重要な役割を果たすことが知られていますが、近年スピンカロリトロニクス(熱を利用したスピントロニクス)用の材料としても注目されています。本研究では、特にFe/Pt多層膜に焦点を当て、薄膜形態における横方向熱電変換の性能指数を評価するための測定手法を開発しました。さらに、多層構造が熱伝導率を低下させ、性能指数を高めることを明らかにしました。
本論文は Physical Review AppliedのEditors’ suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://journals.aps.org/prapplied/abstract/10.1103/PhysRevApplied.21.024039
DOI : 10.1103/PhysRevApplied.21.024039
水素の疑似同位体として酸化物格子中に打ち込まれた正ミュオンは、水素と同様に酸素に強く束縛されるため、室温以下ではほぼ静止状態にあると考えられてきました。この正ミュオンをプローブとするμ+SR法による酸化物の研究では、ほとんどの場合この想定に基づいて実験データの解釈が行われてきました。本研究では、ペロブスカイト酸化物中の正ミュオン拡散を実験・理論の両面から精密に解析し、実際にはゼロ点振動の影響により室温以下でも速い拡散が生じ得ることを明らかにしました。本成果はμ+SR法による物性研究の精密化と水素拡散における同位体効果の理解の深化に貢献すると期待されます。
本論文は Physical Review BのEditors' Suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://doi.org/10.1103/PhysRevB.108.224301
DOI : 10.1103/PhysRevB.108.224301
先端基礎研究センタースピン-エネルギー科学研究グループの山本 慧研究副主幹が参画する共同研究グループは、磁場には容易に応答しないにもかかわらず磁気を内に秘める材料「反強磁性体」の性質を、超音波を用いて詳細に調べられることを実証しました。
本研究成果は、磁気メモリの高記録密度化および動作高速化や高周波磁場の検知を可能にするとして注目されている反強磁性材料の新しい物性測定手法を提供し、今後幅広く利用されると期待されます。
本論文は Physical Review LetterのEditors' Suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.131.196701
DOI : 10.1103/PhysRevLett.131.196701
スピン三重項超伝導の有力な候補物質であるウラン系超伝導体UTe2では、通常は磁場で壊される超伝導が、むしろ強磁場中で安定化することが発見されていました。我々はそのメカニズムを解明するため、強磁場中での核磁気共鳴(NMR)実験を行いました。その結果、強い磁場をかけることで物質内の磁気的ゆらぎが増大し、それによって超伝導が安定化していることがわかりました。今回の成果により、今後ウラン系以外の化合物でもより高い臨界磁場を持つ超伝導体の開発が進み、超伝導技術の応用分野をさらに拡げることに繋がると期待されます。
本論文は Physical Review LettersのEditors' Suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.131.226503
DOI : 10.1103/PhysRevLett.131.226503
一次元イジング型反強磁性体の磁場誘起量子スピン液体相において、ベーテ仮説の複素束縛解であるストリング状態が存在することが理論的に予言されていました。本研究では、典型物質CsCoCl3の強磁場電子スピン共鳴実験により、ストリング状態とマグノン束縛状態とのクロスオーバーの観測に成功しました。これらの励起状態への遷移は本来禁制ですが、数値計算による電子スピン共鳴スペクトルの解析から、禁制遷移観測の微視的機構を解明しました。
本論文は J. Phys. Soc. Jpn.のEditors' Choice(注目論文)に選ばれました。
URL : https://doi.org/10.7566/JPSJ.92.094701
DOI : 10.7566/JPSJ.92.094701
物体を回転させると磁気を帯びる(磁化する)現象がバーネット効果です。本研究では、温調された圧縮ガスによる試料の高速回転技術とナノテスラ級の極低磁場における帯磁率測定法を組み合わせて用いることで、広い温度域で回転誘起磁化信号を系統測定する装置と解析手法を開発しました。本成果は、磁気回転比や角運動量補償温度といった磁気パラメータの評価を可能とし、記憶素子に用いる磁気材料探索に貢献すると期待されます。
本論文は Review of Scientific InstrumentsのEditor's Picks(注目論文)に選ばれました。
また、同時にアメリカ物理学協会 (AIP) と連携するアウトリーチサイト the AIP Publishing Showcase on Kudosにも掲載されています。
URL : https://doi.org/10.1063/5.0142318
DOI : 10.1063/5.0142318
マグノン(スピン波)は磁壁中を伝搬する際、磁壁のトポロジカルに非自明な磁気構造に起因した有効磁場を獲得します。そこで、本研究では反強磁性スカーミオン構造を有する磁壁に着目し、マグノンの伝搬・束縛状態を超対称量子力学に基づいて解析することで、磁壁中を伝わるマグノンの反射・屈折現象の量子力学的ふるまいを理論的に明らかにしました。本研究成果は、磁壁中のマグノンによる熱輸送の電気的制御方法の構築に貢献することが期待されます。
本論文は Phys. Rev. BのEditor's suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://doi.org/10.1103/PhysRevB.107.184432
DOI : 10.1103/PhysRevB.107.184432
ナノスケール磁性体の熱揺らぎに対する安定性(熱安定性)は、磁気記憶素子等の性能を左右する重要因子です。本研究では、近年注目されている先端材料の反強磁性Mn3Snでナノドットを作製し、Mn3Snナノドットのサイズと熱安定性の関係を明らかにしました。本成果によって、今後信頼性とエネルギー効率の優れた素子の開発が進むと期待されます。
本論文は Applied Physics LettersのFeatured(注目論文)に選ばれました。
URL : https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0135709
DOI : 10.1063/5.0135709
ミクロな温度勾配に対応するような非平衡フォノン環境下に置かれた半導体二重量子ドット中の電子スピンのダイナミクスを実時間で観測することに成功し、フォノン励起により駆動されるスピン反転現象の統計を初めて明らかにしました。本研究成果は半導体などのナノ構造で実現されるミクロな熱機関の重要な知見となる可能性があります。
本論文は Physical Review LettersのEditor's suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.129.095901
DOI : 10.1103/PhysRevLett.129.095901
2次元結晶格子構造の一種「カゴメ格子」は、多くの層状物質を構成する基本構造となっています。本研究ではカゴメ格子上において、スピン軌道結合した電子が多彩な構造の磁気秩序を生み出すことを、理論計算により見出しました。本研究で得られた知見は、スピントロニクス応用上重要となる磁気秩序を持つ物質を設計していくにあたって、指導原理として活用されることが期待されます。
本論文は Journal of the Physical Society of JapanのEditors' Suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://journals.jps.jp/doi/10.7566/JPSJ.91.083702
DOI : 10.7566/JPSJ.91.083702
弱く相互作用するボース粒子からなる超流動相・ノーマル相接合の輸送特性を解析し、この系特有の整流効果を発見しました。本研究成果は、冷却原子気体を用いた量子回路の実現と応用のための基盤となることが期待されます。
本論文は Phys. Rev. A (Letter)のEditor's suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://journals.aps.org/pra/abstract/10.1103/PhysRevA.106.L011303
DOI : 10.1103/PhysRevA.106.L011303
受賞内容についてはこちらをご覧ください。
本論文は Journal of the Physical Society of JapanのEditors' Choice(注目論文)に選ばれました。
URL : https://journals.jps.jp/doi/full/10.7566/JPSJ.91.044201
DOI : 10.7566/JPSJ.91.044201
磁性体の磁化を動かす力「スピントルク」を電気的に制御することは、現代のスピントロニクスにおける重要な課題です。本研究では、新たな種類の磁性体「磁性ワイル半金属」において、電気的に誘起されるスピントルクの構造を微視的理論の持つ対称性に基づいて導出しました。このスピントルクは従来の金属磁性体よりも低電流で誘起できるため、今後スピントロニクス素子の省電力化に向けて貢献することが期待されます。
本論文は Journal of the Physical Society of JapanのEditors' Suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://journals.jps.jp/doi/full/10.7566/JPSJ.90.084702
DOI : 10.7566/JPSJ.90.084702
キラル磁性体NdPt2Bの単一異性体単結晶を育成し、非常に複雑な磁気相を持つことを発見しました。強磁性的、および反強磁性的な相互作用に加えて、キラル磁性体に特徴的なジャロシンスキー・守谷相互作用が重要な役割を果たしている可能性を示しました。
本論文はPhysical Review MaterialsのEditors' Suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://journals.aps.org/prmaterials/pdf/10.1103/PhysRevMaterials.5.034411
DOI : 10.1103/PhysRevMaterials.5.034411
電子回路の基本的な性質「インダクタンス」を電子スピンの特性を活用することにより広範囲に制御する新しい方法を見出しました。本研究は、スピンを介したエネルギー変換技術の利用により、従来技術では実現が困難であった集積回路等の極微領域での電源回路や負のインダクタといった魅力的な機能を実現させる「パワースピントロニクス」の開発を切り拓くものです。今後さらに研究を進めることにより、情報集約型の未来社会(Society5.0)を支える基盤量子技術の一環として、幅広く利活用されるようになることが期待されます。
本論文はPhysical Review BのEditors' Suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://journals.aps.org/prb/pdf/10.1103/PhysRevB.103.L100402
DOI : 10.1103/PhysRevB.103.L100402
本論文はPhysical Review LettersのEditors' Suggestion(注目論文)およびFeatureed in Physics(特集記事)に選ばれました。
URL : https://journals.aps.org/prl/pdf/10.1103/PhysRevLett.126.062501
DOI : 10.1103/PhysRevLett.126.062501
本論文はProgress of Theoretical and Experimental PhysicsのEditors' Suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://academic.oup.com/ptep/article/2020/12/123D01/5904281
DOI : 10.1093/ptep/ptaa139
表面音波は圧力センサー等に応用され材料科学ではよく知られています。近年その表面粒子が持つ回転運動やマイクロ波周波数領域における制御性の良さが注目され、スピントロニクスにおいて磁性体と組み合わせた研究が盛んになっています。本研究では、表面音波の力学的回転運動とスピンの磁気的回転運動を組み合わせることで、パターニング等無しに表面音波を一方向にのみ発生させる新しい原理を理論的に提案しました。この現象はマイクロ波アイソレータに応用できる可能性があり、また環境発電を目的とした熱流の制御に関する研究への貢献も期待されます。
本論文は日本物理学会誌欧文誌:Journal of the Physical Society of JapanのEditors' Choice(注目論文)およびJPSJ News Comment(ニュースコメント記事)に選ばれました。
URL : https://journals.jps.jp/doi/pdf/10.7566/JPSJ.89.113702
DOI : 10.7566/JPSJ.89.113702
一部のフェリ磁性体では角運動量補償温度にて内部の正味の角運動量が消失します。本研究は、角運動量補償温度において核磁気共鳴の信号が増強されるこ発見しました。この信号増強は磁壁の移動度の増加に起因していると考えられます。核磁気共鳴を使った本手法は、角運動量補償温度の新たな検出法として期待されます。
本論文はPhysical Review BのEditors' Suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://journals.aps.org/prb/abstract/10.1103/PhysRevB.102.014407
DOI : 10.1103/PhysRevB.102.014407
KEKのBelle実験においてレプトン(電子・μ粒子およびτ粒子)の同等性を、B中間子の崩壊においてテストし、同等であるとの仮定と矛盾しないとの結論を得ました。これまで、B中間子のいくつかの崩壊過程においてレプトンの同等性の破れを示すデータが出ていて、素粒子の標準理論を超える新しい物理の存在を示唆していましたが、その必要性を否定する結果となりました。
本論文はPhysical Review LettersのEditors' Suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : https://journals.aps.org/prl/pdf/10.1103/PhysRevLett.124.161803
DOI : 10.1103/PhysRevLett.124.161803
暗黒物質の候補にはいろいろありますが、素粒子の標準理論に存在するZ粒子と似た性質を持つZ'粒子もその1つです。本研究ではKEKのBelle II実験において、軽いZ'粒子を探索しました。Z’粒子を見つけることはできませんでしたが、その存在に強い制限をかけることができました。これは、Belle II実験の最初の物理結果となります。
本論文はPhysical Review LettersのEditors' Suggestion(注目論文)およびFeatureed in Physics(特集記事)に選ばれました。
URL : https://journals.aps.org/prl/pdf/10.1103/PhysRevLett.124.141801
DOI : 10.1103/PhysRevLett.124.141801
ウラン化合物強磁性超伝導体UTe2の超伝導機構解明は、現代固体物理学の重要な課題です。本研究では、高品質の単結晶試料を用いた125Te-NMR測定により、超伝導状態のスピンー格子緩和時間とスピン磁化率について初めて精密に明らかにしました。今後は、超伝導状態の対称性の理解の進展が期待されます。
本論文は日本物理学会欧文誌: Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ)のEditors' Choiceに選ばれました。
URL : https://journals.jps.jp/doi/abs/10.7566/JPSJ.88.113703
KEKのBelle実験と米国のBarbar実験のデータを合わせて解析し、B0中間子がD中間子とπ中間子などに崩壊するイベントを用いて、クォークの混合を表す小林・益川行列に残されていたcos2βの符号に関する不定性を解消しました。これにより、素粒子の標準理論についての理解がより一層深まることになりました。
本論文はPhysical Review Letters(PRL), Physical Review DのEditors' Suggestion(注目論文)およびPRLのFeatureed in Physics(特集記事)に選ばれました。
URL : https://journals.aps.org/prl/pdf/10.1103/PhysRevLett.121.261801
DOI : 10.1103/PhysRevLett.121.261801
重イオン核融合反応を用いて超重元素を合成するためには、核反応に最適なビームエネルギーの決定や融合反応メカニズムの解明が不可欠です。本研究では、準弾性散乱断面積の測定から116番元素を合成する核反応の融合障壁分布を初めて測定し、最適ビームエネルギーとの関係を明らかにしました。この成果は、今後118番元素より重い新元素を合成する際に役立つものと期待されます。
本論文は日本物理学会欧文誌: Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ)のEditors' Choiceに選ばれました。
ウラン化合物超伝導体URu2Si2の示す“隠れた秩序状態”の解明は、現代固体物理学の重要な課題です。本研究では、29Si濃縮した高品質の単結晶試料を用いる29Si-NMR測定により、その隠れた秩序下で現れる超伝導状態のスピン磁化率について初めて精密に明らかにしました。今後は、超伝導状態の対称性の理解の進展が期待されます。
本論文は日本物理学会欧文誌: Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ)のEditors' Choiceに選ばれました。
原子核の性質を示すツールとして利用されてきた原子核版周期表ともいえる「核図表」を3次元可視化して、原子核の質量、半減期、太陽系の元素の同位体の存在比などを立体的に表すツールをブロック玩具を用いて作製し、物理教育に導入するという提案を行いました。本成果は一般の方々へのサイエンスカフェ、高等学校での科学授業などの実践で多くの好評を得ています。
本論文は「Physics Education (IOP、英国)」の「Highlight of 2014」として2014年に掲載された記事の中から選ばれました。
ウラン化合物超伝導体URu2Si2の“隠れた秩序状態”の解明は、現代固体物理学の重要な課題として注目されています。本研究は、隠れた秩序状態における4回対称性の破れの分布について初めて明らかにしました。今後は、異方的超伝導と隠れた秩序状態の理解の進展が期待されます。
本論文はPhysical Review BのEditors' Suggestion(注目論文)に選ばれました。
URL : http://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevB.91.035111
DOI : 10.1103/PhysRevB.91.035111
核磁気共鳴法を独自に発展させ、1秒間に万回転する物質中の原子核スピンを分析する手法を開発しました。これにより、高速回転運動が素粒子のスピンへ与える効果を直接測定することに成功しました。今後、物体の回転運動を用いてスピンを制御するナノメカニクス研究の加速が期待されます。
本論文はApplied Physics Expressのスポットライト論文に選ばれました。
磁性と超伝導が共存する唯一の超伝導体として知られているウラン系強磁性超伝導体において、既存の磁性理論では説明できない全く新しいタイプの磁性現象を発見しました。原子力基礎研究を通して、固体物理学における相転移の研究に新たな展開を提供するとともに、超伝導を含めた新しい機能をもったウラン化合物を作るための原理の解明につながると期待されます。
本論文は、Physical Review BのEditors' Suggestion(注目論文)に選ばれました。
ラシュバスピン軌道結合は大きな表面電場を反映しており、非磁性金属や半導体の伝導電子のスピン分裂を引き起こす。磁石では、交換磁場によってこのような分裂が変化し、ジャロシンスキー・守谷機構によって大きな磁気異方性エネルギーが生じる。 電気的に生じる異方性エネルギーへのこの通常とは異なるが伝統的でもある経路によって、数多くの実験で報告されている電場、厚さ、材料依存性を説明できる。
本論文は、natureasia.comの注目論文に選出されました。
形状を工夫した磁石の内部に存在する磁壁の運動を制御することにより時間変化しない直流磁場から交流の電圧を生み出す機構を見出しました。磁場の大きさや、磁石の形状を変えることで出力電圧の交流特性も制御可能とするもの。
「スピン起電力の連続生成に成功」 非対称形状を持つ磁性薄膜における強磁性共鳴を利用して、薄膜の持つ磁気エネルギーを連続的に起電力に変換することが可能であることを発見した。
Physical Review Lettersに発表された本論文は、 Asia Pacific Physics Newsletter誌のResearch Highlightsに選出されました。
フィンランド・ユバスキラ大学のP.T. Greenlees博士らの研究グループとともに、 104番元素Rf-256の回転励起構造をインビームγ線核分光の手法により初めて観測することに成功。 Rf-256は、これまで回転励起構造が観測された最も重い原子核で、陽子数が2個少ない102番元素No-254よりも慣性能率が小さいことも示した。 陽子数の増加で原子核の変形度が小さくなること示し、陽子数104の変形閉殻を否定するなど、超重原子核の殻構造に関する重要な成果。
Physical Review Letters 誌のSelected Paperに選定。
希薄磁性原子により孤立したスピンを導入した金属間化合物において、ドハース・ファンアルフェン効果を用いてフェルミ面を直接観測し、近藤相互作用の特性温度の上下におけるフェルミ面の体積及び有効質量の変化を初めて検出した。
Journal of the Physical Society of Japan誌の Editors' Choiceに選定。
大きな磁気異方性を有する特殊な磁石を用いることで、磁石の内部に存在する 磁壁の運動*2が生み出す起電力を安定的に高出力化することが可能であることを見出しました。
注目論文をあつめたVirtual Journal of Nanoscase Science and Technology誌の 選定論文に収載。
強磁性体中(磁石)における磁壁の振動運動が、超伝導接合の電流電圧特性を 用いて高感度かつ高精度で観測可能であることを見出しました。磁壁を利用し た磁気ランダムアクセスメモリーなどの開発促進に期待。
注目論文をあつめたVirtual Journal of Nanoscase Science and Technology誌の 選定論文に収載。
超高真空中に導入した原料分子が、触媒金属の表面で化学反応してグラフェンが 成長する過程を逐次的にモニターすることに成功。グラフェンの成長条件を明ら かにし、炭素原子層数の精密制御を初めて実現した。この方法で層数を精密に制 御したグラフェンでは、剥離法による膜の問題であった電子状態の不均一性が解 消され、シート全体に渡って均質な材料が得られた。グラフェンの電気的性質の 制御が可能になり、デバイス応用へ道を拓く成果である。
注目論文をあつめたVirtual Journal of Nanoscase Science and Technology誌の 選定論文に収載。
「オートラジオグラフィーを用いた福島第一原子力発電所起源の放射性降下物の局所的な分布解析」 オートラジオグラフィーにより、樹木、地表植物、および土壌を対象として、 放射性物質の局所的な分布の測定から福島第一原発起源の放射性Csの降下後の挙動を検討し、 地表植物および樹木が降下した放射性Csの蓄積媒体となり、 土壌中への移行阻止に大きく寄与していることを明らかにした。
「URu2Si2の伝導特性に及ぼす不純物の影響」 正体不明の相転移の起源を巡って研究が繰り広げられるURu2Si2に関して、 不純物が物理的性質、特に伝導特性に及ぼす影響を詳しく調べた。 世界最高純度の試料を用いて初めて、準粒子の異常な散乱を検出する事に 成功した。
「104番元素ラザホージウム(Rf)のフッ化物錯体形成」 Rfのフッ化物錯イオン形成が、周期表上の同族元素と大きく異なり、弱い事を明らかにし、イオン半径がZr4+/Hf4+ < Rf4+ < Th4+となることを予測した。軌道電子に対する相対論効果が大きくなり、その化学挙動への影響について興味が持たれている超重元素領域において、イオン半径に関わる情報を初めて実験的に示した研究であり、日本化学会欧文誌 Bulletin of the Chemical Society of Japan のSelected Paperに選出された。
「新しい磁性半導体の開発に成功」 8月10日のプレス発表に関する論文が、Nature Japan の注目論文に選択されました。 新しい強磁性半導体Li(Zn,Mn)Asの開発に成功。磁気的性質と電気的性質を独立に制御できる可能性があり、更にp-n接合への道も拓かれていることからスピントロニクスへの応用が期待される。中国科学院、米国コロンビア大学、東京大学との共同研究。黎明研究・国際共同研究プロジェクト(研究代表:植村泰朋コロンビア大学教授)の一環
「不純物散乱のもとでの力学的回転によるスピン流生成」 先端基礎研究センターの松尾衛協力研究員、家田淳一研究員、齊藤英治 Grリーダー、前川禎通は、磁場中で高速回転する白金中の電子スピン に対する不純物散乱の影響を理論的に調べ、回転運動で生成されるスピン流を電 圧として取り出せることを明らかにした。この結果は、スピン流を用いたナノス ケールのモーターや発電機の実現に大きく貢献すると期待される。
Appl. Phys. Lett. 98, 242501 (2011) Virtual Journal of Nanoscale Science and Technology, vol. 23, issue 25(2011)
「金表面における巨大スピンホール効果」 先端基礎研究センターの顧波特定課題推進員、前川禎通らは、白金を少量混ぜた金の表面で、スピントロニクスにおける重要な現象のひとつであるスピンホール効果が巨大になり、表面に現れる金の結晶方位にも依存することを、数値計算を用いて理論的に解明した。スピンホール効果をスピントロニクスデバイスへ応用する上で重要なヒントを与えている。
J. Appl. Phys. 109, 07C502 (2011) http://jap.aip.org/resource/1/japiau/v109/i7/p07C502_s1
Virtual Journal of Nanoscale Science and Technology, vol. 23, issue 13
「金表面における巨大スピンホール効果」 先端基礎研究センターの顧波特定課題推進員、前川禎通らは、白金を少量混ぜた金の表面で、スピントロニクスにおける重要な現象のひとつであるスピンホール効果が巨大になり、表面に現れる金の結晶方位にも依存することを、数値計算を用いて理論的に解明した。スピンホール効果をスピントロニクスデバイスへ応用する上で重要なヒントを与えている。
Surface-Assisted Spin Hall Effect in Au Films with Pt Impurities 白金をドープした金の表面でスピンホール効果が増強される機構を、第一原理計算と量子モンテカルロ法を用いて理論的に解明した。この結果から、スピン流制御を行うデバイスに対して新しい設計指針が得られた。 Bo Gu, I. Sugau, T. Ziman, G.Y. Guo, N. Nagaosa, T. Seki, K. Takanashi and S. Maekawa, Phys. Rev. Lett. 105, 216401 (2010) NPG Asia Materials research highlight DOI :10.1038/asiamat.2011.24 (Published online 14 February 2011)
「熱スピントロニクス研究に新しい道」
熱エネルギーからスピン流を発生させるスピンゼーベック効果は、次世代スピントロニクスの鍵をにぎる現象として大きな注目を集めています。先端基礎研究センターの安立裕人博士研究員、前川禎通、齊藤英治客員グループリーダーらは東北大学金属材料研究所のグループと共同で、スピンゼーベック効果が低温で非常に大きく増幅される事を明らかとしました。更にこのスピンゼーベック効果の巨大増幅の背後には、格子振動が熱を運ぶ過程でスピン流を生成する、いわゆるフォノンドラッグというプロセスが存在することを指摘しました。
【以下参考情報】
Applied Physics Letters, vol. 97, p. 252506 (2010). http://link.aip.org/link/APPLAB/v97/i25/p252506/s1
Virtual Journal of Nanoscale Science and Technology, vol. 23, issue 1 (2011)
http://scitation.aip.org/getabs/servlet/GetabsServlet?prog=normal&id=VIRT01000023000001000033000001&idtype=cvips&gifs=yes
前川 禎通、齊藤 英治客員グループリーダー、東北大学金属材料研究所、慶応義塾大学、及びFDK社の研究グループは共同で、 モット絶縁体にスピン流(電子スピン角運動量の流れ)を注入し、長距離伝搬させることに成功しました[Y. Kajiwara et al., Nature 464, 262 (2010)]。
更に、この効果により絶縁体も電気信号を伝送できることを示しました。これまで絶縁体中のスピン流を利用する方法はありませんでしたが、 固体の量子相対論効果(スピンホール効果)および金属とモット絶縁体界面での交換相互作用を用いることで初めて可能となりました。
この成果は、エネルギー損失の少ない新しい情報伝送デバイスとしての応用が期待されるとして注目を集めており、米国物理学協会(AIP) 会報 「Physics Today」(2010年5月号)において紹介されました。
Hyunsoo Yang, See-Hun Yang, Saburo Takahashi, Sadamichi Maekawa, Stuart S. P. Parkin Nature Materials online : 6 June 2010 | DOI : 10.1038/NMAT2781.
前川 禎通、家田 淳一
日本物理学会誌, 65, 324(2010).