安立 裕人(あだち ひろと)


・所属: 日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター 
       e-mail :hiroto.adachi(AT)gmail.com

・研究内容: スピントロニクス・超伝導・凝縮系物理


・CV (English)

・CV (Japanese)


・発表論文 (紀要等を含む)

  H. Adachi, J. Ohe, S. Takahashi, and S. Maekawa
"Linear-response theory of spin Seebeck effect in ferromagnetic insulators" 
(Phys. Rev. B 83, 094410 (2011) [6 pages])  

スピンゼーベック効果の線型応答理論を構築した。サンプル内を流れるほぼ一様な電荷流・熱流などを測定する通常の輸送現象とは異なり、スピンゼーベック効果ではサンプルの上部に取り付けられたシグナル検出用の端子に"注入"されるスピン流を測定している。そのため、従来の電荷流に対して良く確立された線型応答理論を、単純にスピン流に拡張するだけではスピンゼーベック効果を理解することは出来ない。マグノンという自由度に着目し、この論文で定式化されたスピンゼーベック効果の線型応答理論は、磁性絶縁体YIGで観測されたスピンゼーベック効果を定性的にも定量的にも説明可能である。

  J. Ohe, H. Adachi, S. Takahashi, and S. Maekawa
"Numerical study on the spin Seebeck effect" 
(Phys. Rev. B 83, 115118 (2011) [5 pages]) 

スピンゼーベック効果ではサンプルの上部に取り付けられたシグナル検出用の端子に"注入"されるスピン流を測定しているため、この現象に数値的にアプローチするためには、磁性体を記述するLandau-Lifshitz-Gilbert方程式と非磁性金属を記述する拡散型のBloch方程式の二つを連立してシミュレーションする必要がある。しかしこの論文では揺動散逸に基づき、前者のLandau-Lifshitz-Gilbert方程式をシミュレートするだけでスピンゼーベック効果を調べることが出来る方法を定式化した。この論文の結果は、磁性絶縁体YIGで観測されたスピンゼーベック効果をよく説明できる。

 K. Uchida, J. Xiao, H. Adachi, J. Ohe, S. Takahashi, J. Ieda, T. Ota, Y. Kajiwara, H. Umezawa, H. Kawai, G. E.W. Bauer, S. Maekawa and E. Saitoh
"Spin Seebeck insulator" 
(Nature Materials 9, 894 (2010) [4 pages]) 

温度勾配によるスピン圧生成現象であるスピンゼーベック効果は、これまでスピン偏極した伝導電子の流れによって引き起こされていると考えられていたが、この研究では、伝導電子の存在しない磁性絶縁体においてもスピンゼーベック効果が存在する事を明らかとした。私は、局在スピンの低エネルギー励起であるスピン波が媒介するスピンゼーベック効果という観点から理論を構築し、主にSupplementary Informationを執筆した。

 K. Uchida, H. Adachi, T. Ota, H. Nakayama, S. Maekawa and E. Saitoh
"Observation of longitudinal spin-Seebeck effect in magnetic insulators" 
(Appl. Phys. Lett. 97, 172505 (2010) [3 pages]) 

スピンゼーベック効果の検出は、これまで磁性体の"上部"に貼り付けた非磁性金属に注入されるスピン流を測定して行われており、この検出用の非磁性金属には温度勾配に起因する熱流は直接流れ込まない配置であった。しかしこの論文では、シグナル検出用の非磁性金属を熱浴に接する、いわゆる「縦型スピンゼーベック効果」について研究を行った。この際、シグナル検出用の非磁性金属に熱が流入するか否かで、スピンゼーベック効果の信号の符号が逆転することを明らかとし、フォノンによって媒介される熱流がスピンゼーベック効果に非常に重要であることが確立された。

 --Selected in Virtual Journal of Nanoscale Science and Technology, vol. 23, issue 1 (2011)-- 
 H. Adachi, K. Uchida, E. Saitoh, J. Ohe, S. Takahashi, and S. Maekawa
"Gigantic enhancement of spin Seebeck effect by phonon drag" 
(Appl. Phys. Lett. 97, 252506 (2010) [3 pages]) 

熱エネルギーからスピン流を発生させるスピンゼーベック効果は、次世代スピントロニクスの鍵をにぎる現象として大きな注目を集めている。この研究では、スピンゼーベック効果が低温で非常に大きく増幅される事を明らかとした。更にこのスピンゼーベック効果の巨大増幅の背後には、格子振動(フォノン)が熱を運ぶ過程でスピン流を生成する、いわゆるフォノンドラッグというプロセスが存在することを指摘した。

  --PRB Editors' Suggestion--
Hiroto Adachi and Manfred Sigrist
"Probing the d_{x2-y2}-wave Pomeranchuk instability by ultrasound "
(Phys. Rev. B 80, 155123 (2009) [13 pages]) 

電子の飛び移り積分が結晶の対称性を破る電荷秩序(電子ネマティック相;Pomeranchuk不安定性)は、 銅酸化物高温超伝導体の擬ギャップ相や、ルテニウム酸化物Sr3Ru2O7の高磁場領域の奇妙な相の鍵を 握っているとして大きな注目を集めている。しかし磁気秩序相とは異なり、ネマティック相はNMRや 中性子散乱実験では検出出来ないため、これまでその検出方法は確立されていなかった。我々は、ネマ ティック相と結晶格子とのカップリングにある種の選択則が存在する事を明らかとした。更にこの性質を 用いて、超音波減衰に対するLandau-Khalatnikov効果を、守谷・川畑のSCR (self-consistent renormalization)理論を用いて解析し、超音波測定による ネマティック相の検出方法を提案した。

 Hiroto Adachi and Ryusuke Ikeda
"Effects of Pauli paramagnetism on superconducting vortex phase diagram in strong fields"
(Phys. Rev. B 68, 184510 (2003))

重い電子系超伝導体CeCoIn5で発見された不連続な超伝導転移を契機として, パウリ常磁性効果が強い超伝導体の渦糸状態の物理を研究した. それまで, 現実の実験状況を説明する「軌道効果(渦糸の効果)と パウリ常磁性効果の競合」に関する研究はほとんどなされなかったため, この論文によってこの壁を取り払った. ここで主役を演ずるのは, クーパー対のスピンの自由度に伴う物理 (パウリ常磁性効果)と, 軌道運動の自由度に伴う物理(軌道効果)との競合である. 特に後者の効果を採り入れることに関して理論的な困難が存在していたが, この困難をファインマンダイアグラムのパラメータ積分表示を用いることで 克服した. 従来の粗い近似の下では, 上部臨界磁場での超伝導一次転移の オンセット温度と, FFLO(Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov)転移温度とが ゼロ磁場転移温度の0.56倍で縮退してしまう事が知られていたが, 軌道効果によってこの縮退がどのように解けるのかを明らかにした. 我々の結果は, CeCoIn5で見られる実験結果を自然に説明する事が 可能である.

 Hiroto Adachi and Manfred Sigrist
"Anomalous Thermal Conductivity of Semi-Metallic Superconductors with Electron-Hole Compensation"
(J. Phys. Soc. Jpn. 77, 053704 (2008) [4 pages]) 

重い電子系超伝導体URu2Si2で発見された異常な熱伝導率に刺激され, 以下の特徴的な電子状態が, 混合状態(渦糸状態)熱輸送に 与える影響を研究した:(i)少数キャリア(半金属); (ii)電子-ホール補償(電子数=ホール数). この二つの特徴的な電子状態は, URu2Si2の超伝導相を内包する 「隠れた秩序相」内で実現する. また, このような電子状態は ビスマス(Bi)でも実現される事が知られている. 上記の状況は omega_c tau >> 1を導くため, 混合状態の輸送現象の記述に通常用いられる 「超伝導の準古典理論」(半導体での kp 摂動のような近似)が破綻する. このため, これを越える理論を発展させる必要がある. (ここで omega_c と tau はそれぞれ準粒子のサイクロトロン周波数と寿命. ) 我々は, BCS-Gor'kov理論から出発し, 物理的にコントロールされた近似 (第二種超伝導体の上部臨界磁場 Hc2 近傍で正当化される近似)を用いて 上記の困難を克服した. 結果として, 上記二つの特殊な電子状態の 相乗効果が, 新しい型の混合状態熱輸送を導く事を示した. 我々の結果は, URu2Si2で見られる特異な熱伝導率を説明する事が可能である.

 H. Adachi, P. Miranovi\'c, M. Ichioka, K. Machida
"Anisotropic Diamagnetic Response in Type-II Superconductors with Gap and Fermi-surface Anisotropies"
(Phys. Rev. Lett. 94, 067007 (2005))

反磁性応答は超伝導性を特長づける基本的な性質の一つであり、反磁性磁化は 対象物質の超伝導性を確認する際にしばしば用いられる。 混合状態における反磁性応答の異方性がFermi面、gap関数などの微視的異方性を反映することは 古くから知られていたが、逆にこの異方性からgap構造を同定しうるかという問に対しては 明確な答えは与えられていなかった。 このような動機のもと、この論文では異方的反磁性応答とgap関数との関係について Gor'kov方程式の準古典近似の範囲内で調べた。 その結果、(i)ごく一般に反磁性磁化の縦成分の異方性はHc2から低磁場に向けて逆転すること、 及び(ii)本研究の枠組で異方的超伝導体の反磁性応答を半定量的に記述し得ること、の二つ を明らかにした。 更に典型的な異方的超伝導体であるborocarbideの実験結果を解釈し、これはgap関数の異方性 のみでは説明されずこの系のFermi面の強い異方性を考慮して初めて説明されることを示した。

 H. Adachi, P. Miranovi\'c, M. Ichioka, K. Machida
"Quasi-Classical Calculation of the Mixed-State Thermal Conductivity in s- and d-Wave Superconductors"
(J. Phys. Soc. Jpn. 76, 064708 (2007) [7 pages]) 

Fermi波長程度の短波長の自由度を縮約し, 100ナノメートル程度の長波長の物理に 着目する超伝導の準古典理論は, 混合状態のように空間変化する超伝導状態 を記述する最も有力な理論手法の一つである. これまで, 混合状態の熱力学量に関しては 準古典理論に基づく多くの研究例が存在したが, 輸送係数の計算に関しては, 空間変化のない場合(マイスナー状態)の研究例しか報告されていなかった. 一方, 熱伝導率は超伝導状態でも発散しない輸送係数(電気伝導率はもちろん発散) であるため, 超伝導体中の低エネルギー励起を調べるための重要な物理量の一つである. 我々は, 準古典理論に基づく混合状態熱伝導率の計算方法を定式化し, また具体的な数値計算結果を初めて報告した. 結果として, 混合状態熱伝導率がクーパー対の対称性(s波, d波など)に どのように左右されるのかを明らかにし, 熱伝導率測定によるクーパー対の対称性同定方法への微視的基礎づけを行った.

 H. Adachi, P. Miranovi\'c, M. Ichioka, K. Machida
"Basal-Plane Magnetic Anisotropies of High-kappa d-Wave Superconductors in a Mixed State:
 A Quasiclassical Approach"
(J. Phys. Soc. Jpn., 75, 084716 (2006))

以前の研究 (Adachi et al., Phys. Rev. Lett. 94, 067007)) において、超伝導渦糸状態における反磁性磁化の縦成分(M_L)の異方性を研究した。 そして、このM_Lの異方性は一般に高磁場から低磁場に向けて逆転すること を明らかにした。 この論文では層状構造をもつd波超伝導体の面内異方性に焦点を絞り、 反磁性磁化の横成分M_T、もしくはトルクの振舞いをM_Lと比較しながら研究した。 結果として、縦磁化M_Lの異方性が一般に高磁場から低磁場に向けて逆転するのにたいし、 横磁化M_Tやトルクは逆転しないことを明らかとした。 この結果は、Hc2の面内異方性をトルクによって計測できることを示唆している。 強調すべきなのは、揺らぎが強くてHc2を実験的に定義できない物質 (例えば銅酸化物高温超伝導体や有機超伝導体など)においても、 低磁場側のトルク測定で(平均場近似の)Hc2の異方性を議論できることである。 フェルミ面の異方性が弱い物質では、Hc2の異方性はギャップ関数の異方性を 直接反映するので、たとえばノードの位置に関してコンセンサスの無い d波超伝導体であるkappa-(ET)2Cu(NCS)2にトルク測定をすることなどを提案した。

 H. Adachi, M. Ichioka, K. Machida
"Mixed-State Thermodynamics of a Superconductor with Moderately Large Paramagnetic Effects"
(J. Phys. Soc. Jpn 74, 2181 (2005) )

重い電子系超伝導体CeCoIn5は、超伝導渦糸状態におけるパウリ常磁性の効果が無視 出来ない系として注目を集めている。 実際、測定された真木パラメータkappa2は温度の増加関数となって強い常磁性対破壊を 示唆すると共に、熱伝導、比熱、磁化測定などによりT < 0.7[K] においてHc2上の (平均場近似の意味の)一次相転移が観測されている。 これらHc2近傍の現象は、クリーンリミットでのGinzburg-Landau理論 ( H. Adachi and R. Ikeda, PRB 68, 184510(2003))に基づき説明されるが、 渦糸状態中の広い領域で熱力学量へのパウリ常磁性の効果については良く知られていない。 例えばこの系の比熱の磁場依存性は磁場に対して下に凸の振舞を振舞を見せるが、 これは通常の渦糸による寄与を考慮しただけでは説明できない。 我々はEilenberger理論にパウリ常磁性の効果を取り込み、 パウリ常磁性効果が強まると共に(i)真木パラメータkappa2は温度の増加関数 (dirty-limitでの解析結果と定性的には同じ)となり、 (ii)比熱の磁場依存性は確かに下に凸の振舞を見せる、ということを明らかにした。 この結論により、CeCoIn5で見られる比熱の異常な磁場依存性は、常磁性対破壊効果 により自然に説明される事が示された。

 Ryusuke Ikeda and Hiroto Adachi
"Modulated Vortex Lattice in High Fields and Gap Nodes"
(Phys. Rev. B 69, 212506 (2004))

近年 d 波超伝導体と有力視されているCeCoIn5のnode方向に関して、 熱伝導率及び比熱の磁場方向依存性に基づく二つの実験グループの間で 結論に食い違いが見られ、議論を呼んでいる。 一方CeCoIn5は常磁性対破壊の強く効いた系であり、これを反映して 平均場近似での超伝導一次転移線、及びFFLO転移と考えられる二次転移線が 種々の物理量で観測されているが、これら高磁場での 現象に基づくnode方向の同定は、前述の二つの実験が共に低磁場側での アプローチであることもあり大変興味深い。 この論文では、 FFLO転移線 H_FFLO(T)のab面内異方性が、 T*(平均場近似一次転移の onset 温度)やHc2(T)のそれよりも顕在化しやすい 事実に注目してCeCoIn5のnode方向を議論した。 この理論結果と現実に観測されているH_FFLO(T)やT* の異方性と比較すると、この物質におけるnodeは[100]及び[010]方向に存在する と結論される。更にFFLO転移線直上では、LO状態が安定であることも確認した。

 Hiroto Adachi, Shigeru Koikegami and Ryusuke Ikeda
"Theoretical Description of nearly Discontinuous Transition in Superconductors with Paramagnetic Depairing"
(J. Phys. Soc. Jpn. Vol.72 No.10 (2003))

常磁性対破壊の強く効くバルク超伝導体の低温・高磁場・純粋極限という条件下では、軌道対破壊もまた非摂動的に効くという理論的困難が従来から存在していた。我々はd-wave の対称性を持つ weak coupling BCS モデルに基づき、パラメータ表示したダイアグラム計算とその数値的評価を組み合わせることでこの困難を克服し、低温・高磁場に適用可能な平均場近似の結果を導いた。更に、微視的計算から結論される 低温・高磁場・Hc2上での(平均場近似での)強い一次の超伝導転移を、高磁場中渦糸状態の特殊性(超伝導揺らぎの次元低下、渦糸格子シアーモードのソフト化)を考慮して議論した。モンテカルロシミュレーション及び理論的な考察により、これが単なるクロスオーバーに過ぎず、実際の転移はHc2よりも僅かに低温・低磁場で起こる(極めて弱い一次転移である)渦糸格子の融解転移を通して起こる事が示された。この結論はまた、高温超伝導体や有機超伝導体のように揺らぎの強い物質では上述の現象が観測されず、CeCoIn5のように揺らぎの弱い物質でのみ観測されるという実験事実に理論的解釈を与える。

 Hiroto Adachi and Ryusuke Ikeda
"Ginzburg-Landau functional for type-II superconductors with Pauli Paramagnetic Effect"
Journal of Physics: Condensed Matter 15 S2223 (2003) 

clean limit にある第二種超伝導体に対する磁場中GL汎関数は、軌道対破壊を摂動的に取り扱っていたのでは T -> 0で ill-defined となってしまう。通常行なわれるのは常磁性対破壊を(非摂動的に)導入することでこの特異性を除去するという方法である。しかしながら、T -> 0 では常磁性対破壊と軌道対破壊に伴うエネルギースケールは同程度である事が容易に確かめられる。この論文では、両者を same footing で取扱ってGL汎関数を構成し、常磁性対破壊の強い場合に期待される三つの特徴的温度:(1)超伝導転移が不連続的になる温度 T*、(2)FFLO的螺旋状渦糸格子が 出現する温度 T_FFLO、(3)Next Lowest Landau level での渦糸状態が出現する T_next、を微視的に導出した。その結果、T_next〜T_FFLO << T* という関係が得られ、これはCeCoIn5での現象を良く説明していると思われる。

 Hiroto Adachi and Ryusuke Ikeda
"Theoretical Study of Phase Transition in Type II Superconductors with Pauli Paramagnetic Effect in High Magnetic Fields"
(published in Physica B 329-333, 1391 (2003))

近年重い電子系CeCoIn5の磁場中超伝導転移に関して、高磁場領域の平均場相転移線Hc2に於ける一次転移の存在が示唆されているが、この現象はこの物質の強いパウリ常磁性効果に起因すると考えられる。パウリ常磁性効果の無視し得る渦糸状態での理論結果を援用すると、パウリ常磁性効果の無視できない場合にも真の相転移は渦糸の融解に伴う(弱い)一次相転移のみであるという極めて一般的な理論予想が成り立つ。我々はこの予想を強固なものにするため、負の|psi|^4項を持つ Ginzburg-Landauモデルに基づく Monte Carlo シミュレーションを実行した。この結果は理論予想の正当性を強く支持し、平均場近似と実験結果のみに基づいて主張されているHc2での一次相転移は単なるクロスオーバーであって真の相転移は(極めて弱い一次転移の)渦糸の融解転移のみであり、H-T 相図は常磁性効果のないときと同じである事が示された。

 Hideharu Ishida, Hiroto Adachi and Ryusuke Ikeda
"Microscopic Study of Quantum Vortex-Glass Transition Field in Two-Dimensional Superconductors"
(J. Phys. Soc. Jpn. 71 (2002) 245)

強い量子揺らぎが及ぼす超伝導転移への影響という一般的問題の一つとして、磁場誘起超伝導・絶縁体転移は長年議論されている問題である。これに関する磁場中での超伝導薄膜のコンダクタンスの実験データは超伝導・渦糸グラスの量子揺らぎのbosonicな部分に加えてfermionic(Maki-Thompson)な超伝導揺らぎも考慮して理論的に説明される (J. Phys. Soc. Jpn. 71 (2002) 254)が、 この記述をより強固なものとするためには(電子間斥力と乱れの競合を同時に含む) 微視的なハミルトニアンから出発して超伝導揺らぎを取り扱う必要がある。 このような立場からの研究の一部として、私が担当したのは 著者の一人(H. Ishida)による以前の詳細な摂動計算 (J. Phys. Soc. Jpn. 67 (1998) 983 ) を越えてself-consistentなresummationにより超伝導揺らぎの 低温での緩和時間スケールを数値的に計算する仕事である。この結果、超伝導揺らぎの寿命は ある温度以下(かつ超極低温にある温度スケールよりは高温)で それほど温度依存性を示さない傾向にあり、前掲の論文とコンシステントな 記述が可能である事が判った。なお、この仕事で使用した数値計算に関しては小池上先輩 (現産業技術総合研究所)に色々と御教示頂きましたので、この場を借りて 感謝の意を示したいと思います。

 Hiroto Adachi and Ryusuke Ikeda
"Flucturation conductivity in Unconventional Superconductors near Critical Disorder"
J. Phys. Soc. Jpn. 70 (2001) 2848 

異方的超伝導体の対状態の理論研究はミクロな電子状態の情報に基づき 地道に行なうのが通常の方法であり、超伝導揺らぎの性質から対状態の情報を引き出すのは 困難である。では、不純物によって転移温度を絶対ゼロ度にまで押し下げた場合は どうであろうか、という動機からそのような臨界乱れ値近傍での超伝導揺らぎの性質 を調べた。その結果、(準)二次元的なFermi面を持つ物質に対してはp波の対称性を 持つ場合に限り、(臨界乱れ値での)伝導面内の超伝導揺らぎ伝導度は弱く超伝導的であり、 かつ伝導面間の超伝導揺らぎ伝導度は弱く絶縁的である事が導かれた。 この結果は、代表的な異方的超伝導物質であるSr_2RuO_4の対状態の解明に役立つと 期待される。

Ryusuke Ikeda and Hiroto Adachi
"Josephson-Vortex-Glass Transition in Strong Fields"
J. Phys. Soc. Jpn. 69(2000) 2993 

高温超伝導体のジョセフソン渦糸系(外部磁場をCuO_2面に平行にかけた状態)の 特に高磁場領域の理論的記述は、当時(1998年前後)までは満足できるものは 数値シミュレーションを除いてほとんどない状況であったが、 clean-limitでのジョセフソン渦糸系に対しては、層状構造を完全に取り込んだ Lawrence-Doniach モデルから出発して(高磁場領域で支配的な)最低ランダウ準位の 揺らぎを系統的に取り込む取り扱う方法を著者の一人(R. Ikeda)が提出していた。 一方実験事実として(異方性の大きい)BSCCOでCuO_2面内電気抵抗が 外部磁場と電流との相対的な角度に依存しないという、いわゆるジョセフソン渦糸系の ローレンツ力に依存しない電気抵抗が観測され問題となっていた。 この現象を(実験で見られる電気抵抗の磁場・温度依存性とコンシステントなシナリオである) ジョセフソン渦糸系に於ける渦糸グラス転移という立場から説明したこの論文の うち、私が担当したのはこのシナリオを実験的に確認するのに適した物理量である (渦糸の)ティルト応答率の振舞いを調べる事である。その結果、 このグラス相がCuO_2面に垂直方向へのティルトに対して横マイスナー効果を持つ事を確認した。

  E. Ohmichi, H. Adachi, Y. Mori, Y. Maeno, T. Ishiguro, and T. Oguchi
"Angle-dependent magnetoresistance oscillation in the layered perovskite Sr2RuO4"
(Phys. Rev. B 59, 7263 (1999))

ルテニウム酸化物SrRuO4はスピン三重項超伝導体として注目をあつめているが、Fermi面に関する情報に関して ARPES と SdH,dHvA との間に食い違が見られたことから、有機超伝導体のFermi面の測定で成功をおさめている角度依存磁気抵抗振動(AMRO)による実験でこの問題の解決を試みた。結果として複数のFermi面の信号を検出し、この物質が軌道縮退をもつ物質であることを明かにした。