プルトニウムの研究に新たな展開
239Pu 核磁気共鳴(NMR)
LANL実験室にてPu-239 NMR信号観測成功を記念して
中堂博之研究員(左)及び安岡弘志嘱託(右)。
239Pu-NMR信号発見直後、ロスアラモス国立研究所、
固体物理NMR実験室にて。
プルトニウム(Pu)は周期表のなかで最も扱いにくい複雑な元素であり、その正体は未知の部分が多く科学者を魅了し続けてきている。また、Puの酸化物や錯体といった化合物は物性物理学的にも原子力材料科学的にも重要な物質群であるが、金属同様それらの性質は十分理解されているとは言い難い。 しかしながら、今、核磁気共鳴(NMR)という良く知られた微視的分析手法が、これまで理解されていなかったPuにかかわる謎を解き明かす強力な手段として登場した。

日本原子力研究開発機構(JAEA)、先端基礎研究センター(ASRC)と米国ロスアラモス国立研究所(LANL)の研究者は239Pu核のNMR観測に世界で初めて成功した。この発見は、Pu金属やその化合物の複雑な要素が絡み合う未知の物性や機能を原子レベルで解読できる"ロセッタストーン"となることは確かである。この研究は、"Observation of 239Pu Nuclear Magnetic Resonance"というタイトルで米国Science Magazineの5月18日号に掲載され、この号のハイライトの一つに選ばれている。

過去50年にわたって、世界中の物理学者や化学者が239Pu-NMR信号の探索に努力してきたが未だに成功していなかった。今回、JAEA/ASRCの持つ世界最高レベルのNMR技術とLANLにおける卓越したPu化合物取り扱い技術を融合し国際共同研究としてLANLにおいて信号の観測に挑戦した。研究チームは最も適した化合物として二酸化プルトニウム(PuO2)に狙いをつけ、高純度の試料を作成した。LANLの客員教授安岡弘志(JAEA/ASRC、非常勤嘱託)をリーダーとするチームは、このPuO2を用い、液体ヘリウム温度(約4K)で外部磁場を掃引することにより239Pu-NMRの観測に初めて成功した。

実験装置
PuO2における239Pu-NMRの周波数−磁場ダイアグラム(この勾
配から核磁気回転比が決定される)と実験装置の模式図。

1949年の発見以来、NMR分光法は物質の原子や分子レベルでの評価や1H-NMRを用いた断層撮影(MRI)への応用など広い分野へ展開されてきている。また、NMRは、化学、物理や医学における原理を探求する原子スケールでの無侵蝕な手段として特徴的な役割を演じてきている。このような輝かしいNMR分光法の歴史の中で、今回の239Pu-NMRの発見はPuに関する固体物理、化学、生物学や材料科学の発展に革命的な進歩をもたらすものと研究者達は信じている。

このような研究の過程で、研究チームはNMRにとって最も重要な239Pu核固有のパラメーターである核磁気回転比を決定した。この核磁気回転比は"核の指紋"と呼ばれ、原子核の磁気モーメントとスピン角運動量を関係づける定数であると同時に、NMRの共鳴周波数と磁場とのあいだの比例常数でもある(共鳴周波数=核磁気回転比 磁場)。この核磁気回転比が決定されたことにより、物質中で共鳴条件をピンポイントに設定できるようになった。物質中でのNMRは基本的に核磁気をプローブとして電子の状態を明らかにすることにある。この電子が、とりもなおさず、Pu金属や化合物の伝導や磁性や化学反応性といった基本的な物性を制御している。従って、239Pu-NMRを利用することにより、Pu単体金属の構造の不安定性、化合物における異常な高温超伝導の発現機構や環境や生体と強く相互作用しているPu錯体形成のプロセス等未解決の分野の研究が大きく前進することが期待されている。

波及効果
239Pu-NMRの発見と波及効果

更に、原子力工学の分野では核燃料、安全性の高い原子力発電に材料の模索、環境中におけるPuイオンの挙動や核燃料廃棄物の長期保存といった分野でPu化合物の更なる理解は不可欠である。239Pu-NMRはこれらの分野の革新的は研究にも強力な手段となる。 以上のごとく、239Pu-NMRの発見により物性物理学をはじめとするPuに関する多岐にわたる分野で、未踏領域の解明に挑戦できる、まさに、ロゼッタストーンを手に入れたことになる。Pu科学の新しい展開に期待が膨らむ。 本プロジェクトの研究チームは、JAEA/ASRC側が安岡 弘志(非常勤嘱託)、中堂 博之(任期付研究員)、LANL側がGeorgios Koutroulakis, Eric D. Bauer, David L. Clark, Gordon D. Jarvinen, Scott Richmond, Alice I. Smith, Joe D. Thompson、 Douglas K. Veirsの各博士であった。

機構のプレス発表は こちら
サイエンスに掲載された原著論文は こちら
サイエンスの同じ号にこの業績をたたえる 解説文も掲載されています。
ロスアラモス研究所のNews Releaseは こちら
原子力科学研究所で2012年6月8日に開催された 金曜セミナーの資料(7.5MB)です。
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