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センター10周年を記念して
−研究活動の変遷−


安岡 弘志
先端基礎研究センター長 

T.はじめに
 先端基礎研究センター(以下センターと略す)は日本原子力研究所(以下原研と略す)における将来の原子力の萌芽となる未踏分野の基礎研究を積極的に推進し、その分野での中核的な役割を担うことを期待されて、平成5年4月に設置された。発足以来このセンターは、理事長の直轄組織として研究者の創造性、自主性を重んじたアカデミックな管理運営、厳密な外部評価のもとでの時限(原則5年)を決めた短期決戦型の先端基礎研究、研究の進捗に迅速に対応した弾力的・機動的運営、国内外の人材の積極的登用等数々の特徴ある研究スタイルで注目を浴びてきた。そして、それらの特徴が現在までの多くの成果創出の源となってきている。
 
  センターではこれまで、中性子線、放射光、イオンビームといった原研独特の多様なビームプローブを使ってさまざまな放射場の中で見られる現象を研究対象とする放射場科学、重元素合成、分離化学、バイオアクチノイド、ウラン化合物の電子物性などのウランを含む超ウラン元素にかかわる重元素科学、および、極低温下での化学反応など基本的な現象に関する分野で未だに解明されていない事柄を対象とする基礎原子科学の3分野を設定し先端性の高いテーマを重点的に取り上げてきている。センター全体として毎年15ないし17テーマの研究を展開し、原子力科学、技術に大きなインパクトを及ぼす新たな知見の創出を目指している。原子力全体を富士山に例えたとき、ピークには核分裂、核融合、そして放射線があり、これを支えるのは原子炉や加速器等、そして基盤技術がある。センターでは当時手薄だったさらにその下でこれら全体を支える基礎科学を、いわば逆さ富士の領域を、しっかりと固めるというのが基本的な活動指針であった。

 本稿では、センター設立10周年を記念して、伊達前センター長が指導された第一期成長期における活動、現センター長が引き継いだ第二期の成熟への移行期における活動をごく簡単に振り返り、新たな展開への模索について紹介する。

U.第一期における活動(平成5年〜平成10年)
 センターの第一期は伊達宗行前センター長の卓越した指揮下で目覚しい成長を遂げたわけであるが、その詳細は基礎科学ノートVol.5, No2に委ねるとして、基本的な戦略について述べておく。初代センター長がとられたセンター運営の基本思想は孫子のそれであった。

  簡単な言葉で言ってしまえば、“戦争はできるだけしないですませる”、“するとすれば、現実主義で行う”及び“常に主導権をとる”といったものである。具体的な戦略論としては、知勝有五の演繹に従い、1.戦って良い時と悪い時を知れば勝−つまり既にセンター外でおおきく進展している高温超伝導、計算科学、プラズマ科学等の初めから勝ち目のない研究領域には手を出さない。
2.大軍と小軍の使い分けを知れば勝−センターは小軍で奇襲攻撃に向いており系統的、恒久的な研究はしない。3.上下の人心が合えば勝−センター長がリーダーシップを直接的に発揮できるセンター会議や研究会でのポスター賞等を通して十分な研究把握に努める。4.よく準備し油断を突けば勝−中性子科学、常温核融合、黎明研究等。5.将軍が有能で、君主が干渉しなければ勝−理事会とセンター長、センター長とグループリーダーの関係を最適化し人心掌握を行いながら研究を自由にやらせる。このような事柄は、平成11年6月開催された、先端基礎研究交流棟完成記念、特別講演会で先生ご自身からのお話があってので、記憶に残っている方も多いと思う。
  いずれにしても、我が国における物性物理学を独特の発想“伊達イズム”で先導してこられた伊達先生が初代のセンター長を務められたことはセンターにとって大変幸せな事であった。
  この間、センターは順調に発展し平成10年度には研究テーマ数が16、純粋研究経費が約5億円5千万円程度にまでなっていた。更に、平成8年度には、原子力に関連する基礎・基盤研究の分野で独創性、新規性に富んだ着想をある程度具現化した研究素材にまで育てる研究活動を助成するために公募型の黎明研究推進制度を発足させたことは特筆に値する。この制度は現在でも続いており、科学研究費等の役所の行う研究助成とはひと味違うものとしての役割を演じてきている。

V.第二期における活動(平成11年〜平成15年)
 現センター長が引き継いだ平成11年度以降のいわゆる第二期は成長から成熟への移行期であったと位置付けられるであろう。この時期のセンターは、原子力の新しい可能性を求めて、前述の放射場科学、重元素科学及び基礎原子科学の分野において研究を展開し、その目標は“21世紀の原子力関連技術を支える総合的、先導的基礎研究を推進し国際的なCOEを目指す”ことであった。この目的のために、国内外の人材をより一層積極的に登用し、かつ、弾力的・機動的運営を行うことにより、新しい物質、現象、技術の探求と新原理の構築を目指した研究を展開してきた。
  特に、国際化については、研究プロジェクトに積極的に著名な外国人をグループリーダーとして登用し研究文化の融合をはかる事や、新たな試みとしてセンターの研究プロジェクトに関連する国際的なシンポジウムやワークショップを企画開催し国際交流を促進してきた。
  研究の重点項目としては、@ウラン及び超ウラン科学、Aウラン及び超ウラン元素の分離・濃縮科学、B重元素合成と核化学、C生体を含むソフトマターの構造科学及び、Dナノテク粒子ビーム物性の研究を掲げ、研究手法としては、超臨界溶液化学、超流動反応場化学、核磁気共鳴法、メスバウアー分光法、ウラン化合物新物質合成等センター自前の技術群に加え、東海研原子炉からの中性子ビームや、Spring-8の電子・放射光、東海研タンデム加速器からの高崎研重イオンビーム等原研ならではの施設・設備を利用した研究を推進してきた。
  夫々の分野において多くの成果を世に送り出してきているが、それらについては昨年11月に開催されたセンター10周年記念行事の中で紹介された。また、一部は本誌にも紹介されているので詳細は省略する。

W. 今後の展望
 センターの研究活動が10年の節目をむかえた昨今、我々の研究を取り巻く環境が大きく変貌しようとしている。最も重大な関心事は、当然のことながら、原研と核燃料サイクル開発機構統合後の新法人での基礎・基盤研究のあり方論である。昨年原子力二法人統合準備会議から出された「統合に関する報告書」には新法人設立の基本理念の一つとして、「原子力研究開発の国際的な中核的拠点(COE)の実現」が謳われ、新法人は原子力開発を総合的・一体的に実施する先端的な研究開発機関として、科学技術の水準の向上を図り、原子力利用の高度化および多様化の推進に貢献することが期待されている。
 
  この統合は、少なくとも今後半世紀にわたって我が国の原子力研究を左右することになるもので、10年〜20年程度で処理されるべき今日的な重要課題の先にくるであろう原子力の多角的発展や課題処理に対する研究開発能力をいかに具備すべきかが重要である。
  原子力エネルギー研究開発と同時に原子力の持つ総合科学としての基礎研究能力を装備して初めて我が国唯一の原子力関連の中核的研究機関−COE−としての立場が確保され、かつ、統合された新法人の意義が高められるはずである。この意味で、原子力の持つ無限の可能性を基礎科学の立場から掘り起こし、更に、その過程から将来におけるエネルギー資源の確保や新学問分野を開拓し学術の進歩と最先端の科学技術の振興を図ることができるような組織的な活動が不可欠である。

 原子力科学は基本的に物質の根源である素粒子、原子核反応に立脚している。その反応の形態や機構の解明が新しい技術を生み出すわけであるが、基礎研究そのものは量子論に基礎付けられた物理学に立脚していると言っても過言ではない。
  従って、その過程から生まれる諸原理は物理学一般のみならず、科学一般や工学の分野に広く適用され更に新しい研究分野が創出されている。また、この反応を通じて放射される放射場を利用した科学は最先端の生命科学や医学、農学といった分野でも大きな研究ターゲットとなっている。更に、原子力エネルギーを効率的、かつ、安全に取り出す技術開発は、現代文明の社会的基盤を支えると同時に、波及効果として新しい材料開発やテクノロジーへと発展している。

 このような背景のもとで、新法人における原子力開発研究は次世代革新炉の研究開発等のプロジェクト的な「目的研究」とそれらを支える広い技術基盤の形成を目指す「原子力基盤研究」を一層充実させるとともに、新しい原理の構築、新しい現象の発見や解明を目指す「先端基礎研究」を軸として、国際的総合研究機関としての新たな展開を図る必要があると考える。

 また、科学技術基本計画第U期計画では我が国の科学技術将来像として「人類の未来に寄与できる知的存在感のある国(知識で世界に尊敬される国)」作りを目指し、その特徴のひとつとして、世界の優れた頭脳が集積していること、世界の優れた頭脳が、日本において優れた研究を実施でき、また、裁量権をもって活躍できる環境の整備を図ることがうたわれている。従来からの“基礎研究ただ乗り論”を払拭し真の国際化を図るためには、研究の共同作業、新研究組織の形成を通じて“研究文化の融合”をはかることが重要で、そこから独創的な研究が展開され真の国際貢献が生まれると考える。

 以上のような背景のもとで、第二世代を終えたセンターも新法人における次世代先端基礎研究センターへと脱却する時期にきている。具体的検討はこれからであるが、これまでのセンターの特徴を生かしつつ、我が国の原子力開発の基礎を形成し、新たな原子力科学の分野における学問領域や原子力利用技術の創出を目指した国際的にも独創的で優位性のある研究領域を設定する必要があると考えている。それぞれの領域は国際的COEたるにふさわしい魅力あるものに仕上げたいと考えている。
  その一歩として、ここでは新法人における先端基礎研究に係わる国際的COEについて、当面の計画を参考資料として添付しておく。言うまでもなく、新法人そのものが国際的COEを目指すものであるが、ここでの例はそれを構成するユニットとして位置付けられる。

【参考資料:先端基礎研究に係わる国際的COE(案)】

ウラン・超ウラン物質科学におけるCOE
1.研究の必要性
 最近の物質科学の研究の動向は、より未知の物質を開発しその物性を明らかにしつつ新機能の発現を探索するものである。その中で、原子番号89のAcら103番のローレンシウムLrまでのアクチノイド元素の科学は周期律表の中でも最も魅力的な領域に属している。多くのアクチノイド元素は天然では存在せず人工的にしか作れない。しかも、それらは強い放射性のため取り扱いが多くの規制のもとにおかれている。従って、原子力燃料としての開発研究は多くなされているものの、アクチノイド元素を含む金属や化合物の基本的な電子物性に関しては天然に存在するUの場合を除いてほとんど手が付けられておらず未踏の領域となっている。
 
  アクチノイド物質群の物理的、化学的性質を支配しているのは不完全殻を構成し、強く結合に関与している5f-電子である。一般に遍歴性の自由電子モデルがよい出発点となる遷移金属3d-電子に対し、希土類(ランタノイド)元素の4f電子は原子に束縛された局在電子モデルから理解されている。他方CeやU等を含む化合物では、局在的な f-電子が周囲の配位子のs-,p-,d-電子との多体相互作用によって低温で幅の狭いバンドを形成し多体電子状態を保ちながら集団的に動き出すことが明らかとなり、近藤格子状態や重い電子状態などの多くの重要で新しい物理概念が生み出されて来ている。このような局在的なf-電子と遍歴的d-(p-, s-)電子の混成やf-電子間の強いクーロン反発の結果生じる特異な電子状態は一般に強相関電子状態と呼ばれ、銅酸化物高温超伝導体に代表される3d-電子系のそれとともに、多くの実験的・理論的研究の中心課題となっている。一方、アクチノイド元素の5f電子はより遍歴性の3d-電子とより局在性の4f電子の中間に位置し、両者のギャップを埋め、不完全殻電子系の物性に対する統一的な理解のために重要な地位を占めている。固体電子物性における“局在”と“遍歴”という古くからの命題と“スピン”と“軌道”という今日的な課題に対して、超ウラン化合物が格好の研究の場を提供している。しかも我々が、それを現実のものとして操作できる環境が整ってきた状態である。

2.原研の特徴
 超ウラン化合物に関する研究は、従来そのほとんどが、原子力技術開発に関連した応用研究(MOX燃料開発、アクチノイド抽出分離、マイナーアクチノイド(MA)処分・処理技術等)の一部として行われてきた。また、それらの基礎的電子物性を研究しているグループは世界的にも極めて少なく、アメリカのロスアラモス国立研究所(LALN)、ヨーロッパの超ウラン研究所(EITU)や日本原子力研究所(原研)等ほんの数カ所を数えるのみである。原研の先端基礎研究センターは、ウラン化合物の物質開発及び物性研究で世界をリードしており、例えば、世界最高品位のU化合物単結晶育成技術やこれを用いて作製したUPt3系でのエキゾチックな奇パリテp-波超伝導の発見、235U濃縮UO2系での235U核の核磁気共鳴(NMR)の世界初の成功等顕著な成果を上げてきている。また、中性子散乱やNMRを用いた微視的電子物性の研究に至っては他の追従を許さず絶えず世界を先導する研究を展開してきている。

3.新法人での発展
 アクチノイド金属や金属間化合物の物性研究は前述のごとく現代固体物理学で最も難関として残されている伝導電子の局在性と遍歴性の拮抗問題を解く鍵を与えるものである。従って、従来からのウラン化合物の研究をNp、Pu、Amといった超ウラン金属や化合物に発展させることは必須である。ウラン・超ウラン化合物、特に超ウラン化合物の超伝導性や磁性に関する系統的な研究は、今まで行われたことはなく、新たな国際協力の枠組みのもとで原研が先導する国際的な研究を展開していく。このような研究活動より、超ウラン化合物においても数多くの新しい超伝導体や磁性体の発見がなされ、更に、それらの発現機構の解明を通じて新しい物理概念の誕生が促されることを期待している。

4.国際的優位性とCOEとしての役割
 前述のごとく、ウラン・超ウラン化合物に関する基礎的電子物性を研究しているグループは世界的にも極めて少なく、LALN、EITUや原研等ほんの数カ所を数えるのみである。EITUではNp,Pu,Am,Cm等を包含したかなり広汎な電子物性及び高圧下物性研究に以前より取り組み、伝統と実績を有している。しかしながら、実験は多結晶試料での伝導度及び磁化測定等の巨視的物性研究にほぼ限定されている。また、LANLではPuCoGa5における高温(18.5K)超伝導発見などで見られるようにPuを中心として単体金属から化合物まで徹底した基礎物性の探索に乗り出している。ウラン化合物の物質開発及び物性研究では、前述のごとく、原研の先端基礎研究センターが世界をリードしており単結晶育成技術、精密物性測定技術、理論グループとの直接的連携による問題解決等で国際的に優位な立場にある。このように、やっと基礎物性の研究の“まな板”に乗ってきた超ウラン金属・化合物の研究は、新法人がリーダーシップを発揮し、世界的に見ても数少ない研究拠点を連携させながら進めていくことが重要である。

5.本COEに係わる研究協力協定等
 原研、LANL、EITU及び極限環境下での物性測定に伝統のあるフランス原子力庁(CEA
)グルノーブル研究所間で国際協力協定が締結されようとしている。実際、平成16年3月には原研、LANL、CEA間での研究協力協定が締結された。国内的には、原研と東北大学金属材料研究所とのNpやPu化合物に関する共同研究体制が整備され、NpO2の精製やNp(Fe, Ni, Co)Ga5の単結晶育成に成功しドハース・ファン・アルフェン効果、NMRや中性子回折の実験が開始されている。


原子核科学におけるCOE
1.原子核研究の必要性
原子核研究は核分裂やRIなどに代表される原子力の基礎をかためる研究分野である。核変換技術など将来の原子力の発展に繋がる技術の革新を目指して、核分裂や核変換に関する基礎原子核研究が必要である。さらに、RIなどの放射線利用を促進するために新たな放射性同位元素の探索を行いその性質を研究するなど、原子核を幅広く理解することも重要である。

2.原研の特徴
 原研では原子炉からの中性子やタンデム加速器の重イオンビームさらには将来のJ-PARCにおける中性子、ミューオン、K-粒子など各種の大強度ビームの利用が可能である。これらの施設を外部との共同研究で利用できる点でユニークな研究所であり、核分裂など量子効果の重要な低エネルギー領域の研究から高エネルギー粒子の衝突でできる未知の放射性同位元素の探索まで幅広く研究できる特徴を持っており、原子核研究の国際的な中核拠点としての条件を備えている。さらに、原研には基礎核物理研究から核データ、炉物理研究まで幅広い原子核研究者の集団が存在し、相互の交流を通して基礎研究が応用に生かされ、また応用研究から基礎研究への要請があるなどの特徴を持っている。

3.新法人での発展
 原研東海地区における重元素科学の研究は、タンデム加速器をベースとして物質科学研究部所属の加速器管理室、原子核科学研究グループ及び先端基礎研究センター所属の変形核重元素合成研究グループ、超アクチノイド元素化学研究グループによって推進されてきている。しかしながら、設置以来20数年が経った現タンデム加速器の性能は最先端の研究を展開し世界に伍していくには限界に達しており、性能向上のための新たな対策やそれを実行する施策が急務となっている。
  このような状況の中で、KEK が田無施設で運転を行っていた短寿命核加速施設を原研タンデム施設へ移設,結合し、新たな研究の可能性を提供する世界的にも有力な研究施設を形成するという、いわゆる「大強度陽子加速器計画」の精神に則ったタンデム・ブースターとKEK加速器統合計画がスタートした。
  この施設の特徴は、既にKEK が開発したリニアック群を有効利用すると同時に、新たにECRイオン源とIH2と呼ばれるリニアック及び関連ビームラインをタンデム加速器に設置し夕ンデムブースターの性能を飛躍的に向上、拡大できることである。尚、我が国におけるこのような新しい施設の実現は本計画以外には考えられず、国際的な最先端重イオン科学研究拠点として早期実現に大きな期待が寄せられているところである。
新法人ではタンデム加速器施設などの外部共用化を促進し、外部研究者との交流を密にすることで研究の進展を図る。さらに、J-PARCなどでの高エネルギー核反応やマイナーアクチノイド等の中性子核データの収集など核変換技術に資するための原子核研究を進める。

4.国際的優位性とCOEとしての役割
 アクチノイドの核分裂など低エネルギーでの原子核研究を行う研究機関が世界的に少なくなっている。原研には原子炉からの中性子、タンデム加速器からの各種の重イオンビーム、さらにJ-PARCの大強度高エネルギービーム(陽子、中性子、ミューオン、K-粒子など)の利用が可能で、これらのビームを使って核変換技術や放射線利用のための原子核研究を幅広く展開できる。

5.本COEに係わる研究協力協定等
 協定:核物理の分野における研究に係る協力に関する原研とDOEとの間の取り決め
(Agreement between the US-DOE and JAERI on Cooperation in Research in the Area of Nuclear Physics)
相手:米国エネルギー省(The United States, Department of Energy)
協定の内容:原研と米国3研究機関(オークリッジ国立研究所、アルゴンヌ国立研究所、ブルックヘブン国立研究所)との間での人員派遣協定で、(1)重イオン検出器開発、(2)中性子断面積測定、(3)加速器及び測定器技術、(4)基礎核物理、(5)核データの評価・編集、の分野で研究協力を行う。

超重元素化学におけるCOE
1. 研究の必要性
 周期表はどこまで延長できるのか? 周期表の先端に位置する重い元素はどのような性質を示すのか? 原子番号116を超える超重元素の化学研究は、人類がまだ化学の対象として扱ったことのない元素の性質を明らかにするという最先端研究である。
実験手法は、1)放射性アクチノイドターゲットを用いて核反応により超重元素を合成する、2)迅速な放射化学的分離手法を用いてその化学的性質を調べる、3)超重核の壊変に伴う放射線を測定して元素(核種)を同定する、という一連の流れである。すなわち、放射性アクチノイドターゲットの調製、加速器及びその周辺技術、放射化学的分離手法、微量放射線計測技術などの知識と技術を必要とする。まさに核化学、放射化学を含む原子力関連基礎技術を集大成したもので、原子力関連分野の研究者だけが遂行できる研究である。

2. 原研の特徴
 放射性アクチノイドターゲットを用いて超重元素を合成できる加速器施設は世界的にも数研究所しかなく、日本では東海研タンデム加速器施設だけである。従ってこの最先端研究は、国内では原研でしか行えない。世界的にもすでにトップクラスの成果をあげている。

3. 新法人での発展
 国内の関連する大学や研究所と積極的に研究協力を行い、全国規模での超重元素化学研究グループを組織する(すでに一部組織されつつある)。一方、現在進めているドイツ重イオン研究所との国際協力をさらに米国やアジア地域(特に中国)にまで発展させ、超重元素研究の世界的な拠点形成を目指す。このためにも、既存のタンデム加速器施設を改良し、より重い超重元素を対象にした研究へと発展させる。また国内の大学や研究所、さらには国外から学生や若い研究者を積極的に受入れ、原子力関連技術の習得など教育面も重視し、将来の研究者の育成を行う。

4. 国際的優位性とCOEとしての役割
 核反応で合成される超重元素の量は極めて少なく、また短い半減期で壊変してしまう。このため1個の原子を対象に、素早く分離分析して化学的性質を決めなければならない。非常に難しい実験が要求されるため実験系も限られ、これまでは断片的で、相反するデータがいくつか報告されているにすぎなかった。これに対し原研グループは、単一原子を対象にした精密な分析システムを構築し、104番元素ラザホージウムの化学的性質に関してきわめて高い精度で系統的なデータを提供した。そして超重元素領域では初めてとなる化学平衡を明らかにしたことで世界的にも注目されている。

5.本COEに係わる研究協力協定等
協定:イオン照射利用分野の研究開発における日本原子力研究所とドイツ重イオン究所との間の科学協力
(Memorandum of Understanding for the Scientific Cooperation between the Japan Atomic Energy Research Institute and the Gesellschaft fur Schwerionennforschung mbH)
相手:ドイツ重イオン研究所(GSI: Gesellschaft fur Schwerionennforschung mbH)
協定の内容:原研とGSIとの間での国際協力実験ならびに人員派遣協定
 高崎研究所材料開発部が窓口となり、以下の3テーマについて国際協力を行っている(1)核飛跡の利用に関する研究、(2)重イオンによるDNA損傷に関する研究、(3)重元素の核化学に関する研究。

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