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10周年記念シンポジウム学術講演

高選択性複合吸着剤の合成と放射性核種分離

                                            三村 均
                                                            東北大学教授

Synthesis of Highly Selective Composite Adsorbents and Separation of Radioactive Nuclides

Hitoshi MIMURA
Dept. of Quantum Science & Energy Engineering,
Graduate School of Engineering, Tohoku University

 Special attention has been given to the selective separation and recovery of heat-generating nuclide (Cs), platinum group metals (PGMs: Pd, Ru and Rh) and actinoids (Am) from high-level liquid wastes (HLLWs) in relation to the partitioning of radioactive nuclides and their effective utilization. The present work was undertaken in order to propose a method for immobilization of selective adsorbents and extractants into alginate gel polymers.
  The uptake behavior of various nuclides on composites was examined by the batch and column methods. The chromatographic separation of Cs/Rb, Pd/Rh/Ru and Am/Eu was performed by using the columns packed with alginate composites.

1.はじめに
 放射性廃液中から有害な放射性核種を除去できれば放射性廃棄物の容量の縮小化と被曝低減化に大きく貢献するとともに、除去された放射性元素には、発熱元素(Cs, Sr)、白金属元素(Pd, Rh, Ru)、超ウラン元素など有用金属も含まれていることから、放射性核種を精密(単元素)分離できれば放射性廃棄物処理の上で非常に有用な技術となる。このため、高選択性複合吸着剤を合成し、放射性核種を精密に分離する研究を、原研が実施している黎明研究の助成も受けて行っている。 
ここでは、これまでの研究成果とこれからの研究について述べたい。

2.Cs, Srの相互分離および直接回収
(平成10年度黎明研究の成果)

 137Csと90Srはともに発熱性核種であり、それらを高純度に分離し、固化体化できれば、高感度熱電センサ−との組み合わせによる発電や、137Csからのガンマ線を利用してじゃがいもの発芽防止等に利用できる。このような観点から、高レベル放射性廃液からのCsの直接回収、Cs/Srの分離を試みた。更に回収したCsおよびSrの高温焼成法によるセラミックス固化体の製造を行った。

 まず、高レベル放射性廃液環境下で利用可能な吸着剤(分離剤)には、KNiFC(K,Ni不溶性フェロシアン化物), AMP(モリブドリン酸アンモニウム)、ゼオライトの一種のモルデナイトなどがある。図1はそれらの構造で、吸着力の強い順に並べてある。Csは、KNiFCおよびAMP細孔内の交換性カチオンであるK,NH4+あるいはモルデナイトの蜂の巣状構造内のNaとのイオン交換により吸着捕捉される。
  KNiFC、AMPは超微粉末であり、分離カラムによる連続処理にはそのままでは使用できない。これらのイオン交換体を、粒状である天然モルデナイトまたは活性アルミナの細孔内に担持した複合体を開発し、カラム吸着実験を行った。
  その結果、いずれの場合でも良好な吸着・溶離特性を示し、Cs用分離カラムとしての有用性が実証された。AMPを担持した活性アルミナ複合体は、Csの選択吸着および溶離が可能であり、優れた分離特性を示す。Cs+を選択的に分離した溶離液を数百℃で処理してアンモニウムを除くと、高純度のCsNO3単独溶液が得られる。
  これを固定化担体であるゼオライトに吸着させプレス成型し、1,000℃以上で焼成すると、直径、高さとも15 cmの円柱状セラミック固化体を作ることができた(核燃料サイクル開発機構との共同研究)。図2は、これを小さく切り出したセラミックス固化体を示す1)。Cs/Srの混合廃液の場合には、これらの相互分離は、KNiFCを担持したA型ゼオライト複合体を利用し、溶離剤を変えることにより可能である。分離されたSrは、Csと同様な手法によりセラミックス固化体とすることができる。

図1 Cs吸着用無機イオン交換体の構造と吸着序列 図2 Csゼオライトの高温焼成によるセラミックス固化体

 

3.マイクロカプセルによる放射性核種の精密分離
 昆布(褐藻類)の成分であるアルギン酸ナトリウムを包括用担体材料とし、微細な無機イオン交換体あるいは有機抽出剤を包み込んだバイオポリマーマイクロカプセルの合成およびCs/Rb,Pd/Ru/Rd,Am/Eu等の精密分離を試みた。
 
 マイクロカプセルの調製方法を図3に示す。アルギン酸ナトリウムは、かまぼこ、アイスクリ−ム、人工いくらの殻などの食品に使用されており、非常に安価で簡単に入手できる。この希薄な水溶液に、無機イオン交換体粉末あるいは有機抽出剤を添加し、均一に混練する。クリーム状としたゾルを、CaCl2, SrCl2またはBaCl2等のゲル化剤に滴下すると、瞬時にゲル化し、これを乾燥すればマイクロカプセルが調製できる。カプセルの形状は、粒状、柱状、繊維状、膜状と様々な形態にコントロ−ルできる。


図3 マイクロカプセルの調製手順とゲル構造


 CsとRbの分離には、無機イオン交換体であるAMPを吸着剤として利用した。SEM像、EPMA,EDS等による分析からアルギン酸カルシウムのポリマー担体中に数ミクロン程度のAMP微結晶が包括固定され、AMPへのCsの選択的吸着が確認できた。このマイクロカプセルに対するCsの吸着力は非常に強く、高濃度(5 M)の硝酸ナトリウム溶液中でも、分配係数(Kd,Cs)は約104cm3/gと非常に大きい。また、硝酸濃度依存性はなく、約3時間で吸着平衡に達する。Csに比べると他の元素の分配係数は非常に小さい。充填カラムを用いて、硝酸アンモニウム溶液を溶離剤とすれば、CsとRbが効率良く相互分」できることが分かった。

 Pd、RuおよびRhの相互分離は、吸着剤としてCyanex 302のような有機抽出剤をマイクロカプセル内に包み込んで行った。界面活性剤を用いると、内包する抽出剤は数ミクロンに微小化できる。図4は、調製したマイクロカプセルにPd/Ru/Rhを吸着させた後のSEM像およびEDSスペクトルを示す。抽出剤部分にPd,ゲル部にRuがイオン交換吸着しているのが分かる。Rhはほとんど吸着されない。このことは白金属元素の相互分離の可能性を示唆する。図5に示すように、マイクロカプセル充填カラムを用いて、溶離剤を適当に選ぶことにより、白金族元素の精密分離が可能であった。

 AmとEuの分離は、いずれも3価カチオンであり、化学的に類似の性質を有しているため、相互分離は難しいとされている。有機抽出剤としてCyanex 301を内包し、担体であるポリマーゲルの種類を変えてAmとEuの分離係数を算出した。図6に示すように、アルギン酸ゲルで抽出剤を内包したマイクロカプセル(Cyanex 301-HALG)が最も高い分離係数を示した。充填カラムを用いて溶離特性を調べると、溶離剤の酸性度を調整することにより、良好な相互分離と回収率が得られている4)。

 

4.3種類の金属吸着剤を包み込んだ多元機能
マイクロカプセルによる放射性核種の一括除去(平成13年度黎明研究の成果) 

         

図4 Cyanex 302-CSSaALG(BaALG)マイクロカプセル        図5 マイクロカプセル充填カラムによる白金族元素の精密分離
のSEM像とカプセル断面のEDSスペクトル
  

 事故廃液や高汚染水中には多種多様な放射性核種が混入している。これらの廃液から一括して放射性核種を分離除去できれば、高減容化および被曝低減化の観点から非常に望ましい。このような視点から、前述のマイクロカプセル内に、複数のイオン交換体や有機抽出剤を包み込み多元機能化したものの開発と放射性核種の一括除去を試みた。
  カプセルのベースにはこれまで述べてきたアルギン酸カルシウム(CaALG)ゲルを利用し、内包させるイオン交換体として、Cs選択性イオン交換体としてAMPやCuFCを用い、SrおよびCo選択性イオン交換体としてゼオライトを選択した。
  多価核種のY、EuおよびAmの有機抽出剤としてはDEHPAを選び、高速で脱泡混練することにより吸着剤を均一に分散させることにより多元機能マイクロカプセルを調製した。図7は、調製した多元機能マイクロカプセルの模式図を示す。マイクロカプセルは、CaALGゲルポリマ−担体内部に3種類の吸着剤を包みこんだミクロ構造から成り立っている。

 多元機能マイクロカプセルは、吸着剤の種類と内包量および担体組成などを変化させて、約40種類の試料を調製し、上記核種の分配係数を測定して吸着性能を評価した。一例として、CuFC-CP-DEHPA-CaAlG(CP: クリノプチロライト)マイクロカプセルについて、硝酸共存下および硝酸ナトリウム共存下での吸着特性を紹介する。
  対象とした金属イオンは、Cs、Sr2+、Co2+、Y3+、Eu3+およびAm3+で、Am3+(キャリアフリ−)以外の金属イオン濃度は10 ppm、硝酸濃度は10−2Mである。吸着平衡時間はおよそ1日、この条件ではSr2+とCo2+以外は分配係数が103cm3/g以上であり、Cs、Y3+、Eu3+およびAm3+に対して高い吸着性を示す。
  分配係数は硝酸濃度に依存するが、0.1 M程度まではCs、Y3+、Eu3+およびAm3+は102cm3/g以上を保っている。また5MNaNO3存在下でも、102cm3/g以上を示し、Cs、Y3+、Eu3+およびAm3+等の金属元素に対し強い吸着性能を持っている。吸着したマイクロカプセルのEPMA分析から、CuFC及びCP部にCs+、DEHPA及びゲル部にY3+とEu3+が検出されており、これらの元素が一括して除去できることが実証された。なお、Amは3価カチオンであるYおよびEuと同じ吸着挙動をとる。

図6 Cyanex 301を内包したマイクロカプセルのAm/Euの分離係数と充填カラムによるAm/Euの精密分離

 


図7 マイクロカプセルの模式図

 

5.今後の展開
 発熱元素に対して高選択性を有する無機イオン交換体を、無機多孔体内に担持した新規複合吸着剤を開発し、高レベル廃液からの選択的分離・回収および固化、更には廃棄物の有効利用を目指して、核燃料サイクル開発機構、日本原子力研究所、ヘルシンキ大学と共同研究を進めている。

 マイクロカプセル化技術の応用では、超ウラン元素の分離、新規な脱硝プロセスの開発およびFP核種の精密分離などを総合的にシステム化して、新しい再処理、廃棄物処理法を構築していきたい。特に、有機抽出剤のTBP(tri-butyl phosphate)をマイクロカプセルに内包させるとプルトニウムを吸着分離するが、この研究は原研との共同実験で進める予定である。また、AMPマイクロカプセルは環境モニタリングへの利用の可能性を調べるため原研と共同研究を進めている。
 マイクロカプセル化技術は、環境科学や生体科学分野など広い領域で応用可能であり、今後の展開が期待される。


参考文献
1) H. MIMURA, K. AKIBA, M. OZAWA: Proc. of International Conference Nuclear Energy for New Europe 2002 (2002).
2) H. MIMURA, Y. ONODERA: Proc. of ICEM’01 (2001).
3) H. MIMURA, H. OHTA, K. AKIBA, Y. WAKUI and
Y. ONODERA: J. Nucl. Sci. Technol., 39, 1008-1012 (2002).
4) H. MIMURA, H. HOSHI, K. AKIBA, Y. ONODERA:
J. Radioanal. Nucl. Chem., 247,
375-379(2001).
5) H. MIMURA, K. AKIBA, Y. ONODERA:
Proc. of WM’02 (2002).

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