パネル討論「原子力ミッション研究と基礎研究」

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永井泰樹
(大阪大学教授)


「原子力ミッション研究と基礎研究−大学で教育・研究に携わる立場から」

 大学で教育・研究に携わる立場から原子力ミッション研究と基礎研究について述べたい。基礎研究、原子力応用研究に共通の課題は、次代を担う人材の育成と国民に対する説明責任だと思う。学生が分野を選択する際、基礎研究については面白い研究をしたいと思い、原子力研究についてはエネルギー問題の重要性の認識と解決への使命感を主たる動機としている。市民講座を約10年やっているが、市民は基礎研究者に対し自らの夢を託し、原子力研究については安全確保を期待していると感じている。我々、シニアの研究者の役割は、夢のある研究の立案とその遂行に尽きる。

 加速器核変換システムの研究開発は、原子力研究の点から見て、長寿命放射性廃棄物は子孫に残さない、Thサイクルなど画期的なエネルギー増幅研究である、核不拡散に貢献する、安全性が高いなど非常に夢がある。一方、核物理の立場からは高効率で安全性の高いシステム構築に向け各種マイナーアクチノイド核の中性子反応断面積など様々な基礎データを求める必要がある。大強度陽子加速器計画の一つである加速器核変換実験施設(図3)では、200kWの高強度ビームを利用でき、基礎研究に非常に魅力的な施設である。基礎研究の展開には新プローブの開拓とその利用が不可欠である。

  我々が超冷中性子の生成とその利用の研究を始めてから、若い研究者がこの分野に参加してきている。核変換実験施設で発生する核破砕中性子と固体重水素による高強度超冷中性子は新しい物理を開拓できると考えている。また、原研では、タンデム加速器を使い、高エネルギー加速器研究機構(KEK)と協力して不安定核ビームを作るプロジェクトが進行しているが、不安定核ビーム生成にも加速器核変換システムの高エネルギー大強度陽子ビームは非常に魅力的である。

 基礎科学研究者がエネルギー開発研究へ目を向け取組む事で、物理として面白い課題、未開拓な研究課題を発掘し、それが新しい研究の契機となり、その研究をとおして人材育成にも貢献できると考えている。

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