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10周年記念ノート

パルス中性子イメージング検出器の実現をめざして

片桐政樹 ・ 坂佐井 馨

パルス中性子イメージング研究グループ  

Development of Pulsed-Neutron Imaging Detectors


Masaki KATAGIRI and Kaoru SAKASAI
Research Group for Pulsed-Neutron Imaging

 The next-generation pulsed neutron source using high-intensity proton accelerators has made a great deal of progress in J-PARC project. It is indispensable to develop excellent neutron imaging detectors used for neutron scattering experiments using the high-intensity pulsed neutron source. We have developed two kinds of position-sensitive neutron detectors aiming for high counting rate, high spatial resolution, high neutron gamma-rays discrimination, and high detection efficiency. One is the high-speed read out method for neutron imaging plate, which has high spatial resolution and high detection efficiency. Others are the neutron-imaging detectors using scintillators with short decay time, which have high counting rate, high spatial resolution and high detection efficiency.


1.背景
 原研と高エネルギー加速器研究機構が共同で建設を進めている大強度陽子加速器計画J−PARC、米国SNS計画、英国ISIS−U計画などにおいて、核破砕を用いた大強度パルス中性子源の建設が精力的に進められている。これらのパルス中性子源の特長は、原子炉・定常中性子源と比較して時間平均中性子束は変わらないものの、ピーク中性子束が数100倍強く、かつ飛行時間(TOF)法を用いた中性子エネルギーの弁別が不可欠となることである。

 パルス中性子源の特長を最大限に生かした中性子散乱実験や中性子ラジオグラフィなどを行うには、定常中性子源をベースに開発された従来の中性子イメージ検出器では困難であり、高計数率、高時間分解能、高位置分解能、高ダイナミックレンジ、および広いイメージ面積などの性能にブレークスルーが要求される。また、開発した検出器を実際に散乱実験装置などに実装する際には、上記性能以外に、コスト、製作方法、メインテナンスの容易さなどの要因を解決する必要がある。
「パルス中性子イメージング検出法」の研究テーマの最終目標を「大強度パルス中性子源に十分対応できる中性子イメージ検出器の実現」と定めて、イメージングプレート及びシンチレータを検出媒体としたパルス中性子イメージング検出法の開発研究を行った。

 

2.提案
 パルス中性子を利用した散乱実験によりこれまでにない研究を進めようとしている固体物理学、生物構造学などの分野で要求している中性子イメージング検出器の性能は大きく分けて2つに分類される。1つは、検出面積が比較的小さく、1mm以下の高位置分解能を要求する検出器である。もう1つは、検出面積が数m2以上で、位置分解能も5x5mm2以上で、大面積を特長とした検出器である。

 2つの検出器に共通している要求性能は、大強度のパルス中性子に対応するため、これまでにない高計数率での検出を必要とすること、かつ中性子エネルギーを飛行時間(TOF:Time Of Flight)法で精度良く選択するため、時間分解能を必要とすることである。

 このようなパルス中性子イメージング検出器を実現するには、従来検出器からの ブレークスルーが不可欠である。実現には2つの方法がある。1つは、中性子イメージングプレートなどの積分型検出器にTOF法に不可欠な時間分解能を付与する方式で、リアルタイムで高速に中性子イメージを読み取る方法の開発が成功の鍵をにぎる。1つは、シンチレータを用いた中性子イメージング検出器の高計数率化であり、中性子が入射し信号を発生する際、その信号を飽和させずに高速に読み出し、かつ位置分解能を上げることが可能な信号読み出し法の開発が成功の鍵となる。

 

3.解決1:中性子イメージングプレートの高速読み取り法
 積分型の代表的な検出器の1つに、高位置分解能でかつ高ダイナミックレンジを特長とした中性子イメージングプレートがある。X線用イメージングプレートの検出媒体である輝尽性蛍光体に中性子コンバータとしてGd、6Li等を混合し中性子に有感な検出器としている。積分型のため高計数率の中性子イメージングに十分適応できる反面、時間分解能がなく、パルス中性子の最大の利点であるTOF法によるエネルギー弁別の恩恵を受けることができない。

 中性子イメージングプレートの高位置分解能特性は非常に魅力のある検出性能であり、時間分解能を付与することにより十分パルス中性子に対応可能となる。このため、リアルタイムで高速に読み取ることにより、時間分解能を付与するイメージングプレートの高速読み取り法を考案した(図1)。


図1 中性子イメージングプレートの高速読み取り法

 

 本方法では、従来一点一点イメージングプレートの画素をレーザービームで走査し2次元イメージを得ていた方式を、イメージングプレートの横幅の画素を一度にパラレルで読み取ることにより実現する。

 実際には、線状レーザー光を回転ミラーで、イメージングプレートの上から下まで走査し、イメージングプレートの後面から放出された輝尽性蛍光を面状に並べた波長シフト光ファイバ束(横軸)で検出する。波長シフトされた蛍光をストリークカメラの時間軸(縦軸)を回転ミラーに同期して掃引させることによって、ストリークカメラのCCDカメラ上に中性子の二次元イメージを得ることができる。以上の動作を繰り返すことによりイメージングプレートに時間分解能を付与することが可能となる。

 輝尽性蛍光体としてBaFBr:Eu2+を用いた富士写真フィルム製の中性子イメージングプレートBAS−NDを用いて高速読み取り法の実証試験を行った。5mmφのα線の読み取り画像を図2に示す。直径1mmの波長シフトファイバを用いているため、位置分解能はX軸(波長シフトファイバ軸)で1mm、Y軸(レーザー走査軸)で0.7mmであり、4msの時間で4cmx5cmのエリアを高速に読み取ることが可能であることが原理的に確認できた[1]。


図2 イメージングプレート高速読み取り法により得られた5mmφα線イメージ


 また、市販の中性子イメージングプレートBAS−NDは、X線用検出媒体として開発された輝尽性蛍光体BaFBr:Eu2+に酸化ガドリニウムを混合して作製されており、ガンマ線に対する感度も大きい。大強度パルス中性子源を使う場合、ガンマ線バースト、測定試料あるいは周囲からのガンマ線の影響が大きいことが想定される。このため、ガンマ線感度が小さく、読み取りの高速化に不可欠な蛍光寿命の短い輝尽性蛍光体の開発研究を行った。構成元素に中性子コンバータであるホウ素(B)を含んだSrBPO5:Eu2+蛍光体の試作研究を行った。Eu2+の遷移に起因する390nmの輝尽性蛍光を発し、励起帯域もBaFBr:Eu2+と重なるため、市販のイメージングプレートリーダーでも読み取りが可能である。実験の結果、中性子感度は市販の中性子イメージングプレートより低いものの、中性子感度とガンマ線感度の比は約一桁優れていることを確認した[2]。さらにEu2+をCe3+に置換したSr10BPO5:Ce3+を試作し、ピーク蛍光波長が350nmであり、その寿命が23.5nsと非常に短かく、高速読み取り法の高速化に対応可能であることを確認した。

 

3.解決2:シンチレータを用いた中性子イメージング法
 パルス中性子に対応したシンチレータを用いた中性子イメージング法としては、@コインシデンス法を用いた高計数率・高位置分解能中性子イメージング法、A4コインシデンス法を用いた高計数率・大面積化中性子イメージング法、B短寿命シンチレータによる高計数率イメージング法及びC背面読み取り法による中性子イメージング法をベースとして開発研究を進めた。紙面の都合で、@及びCについて簡単にご紹介する。

 蛍光体/中性子コンバータ・検出シートを用いた高位置分解能中性子イメージング法としては、従来、波長シフトファイバを直交して検出シートの上下に配置し、中性子入射により発光した蛍光を検出することにより、入射位置を決定するクロスド・ファイバ法が用いられてきた。検出シートとしてはZnS:Ag/6LiFが用いられるが、蛍光量が多いことから、中性子が入射すると入射位置の周辺の何本もの波長シフトファイバで蛍光を検出してしまう。入射位置を正確に求めるためには、どのファイバが最も多く蛍光を検出したかを求める必要があり、回路系が複雑になると共に位置決定までに時間を要した。

 このため、高位置分解能を維持したまま高計数率に対応し、かつ簡便に2次元中性子イメージ検出しその入射位置を決定する方法として、横に並んだ隣接する波長シフトファイバをコインシデンスして位置を決定する方法を考案した(図3)[3]。


図3 コインシデンス法を用いた中性子イメージング検出法

 検出シートの上面と下面に、一片の長さが0.5mmの波長シフトファイバを直角に、並列に配置する。両隣の2本あるいは3本の波長シフトファイバがコインシデンスした時、その真ん中に対応した場所を中性子が入射した位置とする。コインシデンス時間は蛍光体の蛍光寿命に近い値を設定する。

 原子炉から発生する冷中性子を用いて位置分解能確認試験を行った。2mmφにコリメートされた冷中性子ビームの2コインシデンスを適用した場合の測定結果を図4に示す。


図4 2mmφにコリーメートした中性子ビームのイメージング例

 X軸に対して0.5mm、Y軸に対して0.6mmの位置分解能が得られることを確認した。

 クロスド・ファイバ法を用いた高位置分解能中性子イメージ検出器の場合、波長シフトファイバがプラスチックを素材としているため、ファイバ内の水素による反射が生じ一部の中性子を検出できなくなる欠点がある。また、検出器を製作する場合、薄い検出シートを波長シフトファイバで挟み込む必要があり製作工程が複雑でコストもかかるという欠点もある。

 このため、検出シートあるいは中性子用シンチレータの背面から蛍光を検出して中性子の入射位置を決定する背面読み取り法を考案した(図5)。 


図5 背面読み取り法

 検出シートの背面に吸収波長帯の異なる二種類の波長シフトファイバを直交して配置することにより中性子の入射位置を求める。ZnS:Agの蛍光波長帯のうち短い波長帯については最初の短波長用波長シフトファイバで検出し、長い波長帯については最初の波長シフトファイバから約30%の割合で透過して出てくる蛍光を背後においた長波長用波長シフトファイバで検出する。直交した波長シフトファイバからのフォトン信号のコインシデンスをとることにより中性子の入射位置を決定する。

 蛍光寿命40nsのY2SiO5:Ce3+と7Li210B4O7中性子コンバータを組み合わせた検出シートを作製し背面読み取り方式と組み合わせた中性子イメージ検出器を試作した。JRR−3の小角散乱実験施設を用いてイメージ検出特性試験を行った。直径2mmにコリメートされた中性子ビームを測定した結果を図6に示す、位置分解能が0.6−0.7mmであり、クロスド・ファイバ法と同等の性能を有することが分かった[4]。


図6 背面読み取り法による中性子イメージング例

 

5.進展
 先端基礎研究センターで5年間行った「パルス中性子イメージング検出法」の研究成果をベースとして、実用化に向けた研究を、1年間中性子利用センターで行った。背面読み取り法に、新しく考案した波長シフトファイバを直角に折り曲げる技術を組み合わせることにより検出シートの背後に位置する光電子増倍管に最短の距離で波長シフトファイバを接続する技術を開発し、検出器のコンパクト化に成功した。写真1に1ハンドメイドで製作した16x16 ピクセルの高位置分解能中性子イメージ検出器を示す。この検出器と開発したTOF実験用信号処理装置と組み合わせ、高エネルギー加速器研究機構のパルス中性子実験施設(KENS)においてTOF中性子イメージング実験を行った。中性子ビームを1mmx1mmのコリメータでコリメートして、中性子イメージをTOF実験で測定した結果を図7に示す。時間の経過とともに、つまり中性子エネルギーが低くなるに従い、良くコリメートされた中性子イメージを測定できることが確認できた。

 J−PARCの中性子散乱実験装置で使用する中性子イメージ検出器の開発に必要な要素技術の開発が終了したことから、今後は実使用に向けてのプロトタイプ検出器の試作を進める予定である。

    
写真1 コンパクト化した高位置分解能中性子イメージ検出器         図7 1mmx1mm中性子ビームのTOF測定結果


参考文献
1)M. Katagiri, et al.: Nucl. Instr. And Meth. A, 461 (2001) 207-209
2)K. Sakasai et al.: IEEE Trans. on Nuclear Science 50 (2003) 788.
3)M. Katagiri, et al.: Apl.phys.A74,[Suppl.], S1604-S1606 (2002)
4)M. Katagiri, et al.: Nucl. Instr. And Meth. A, 513(2001) 374-378


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